戦後、民主化という思想のもとに日本の様々な制度が改められた。その一環に漢字制限がある。それが1946年に告示された当用漢字だった。以後、当用漢字政策はいくつかの改訂を経て、最終的には1981年に告示された常用漢字に吸収されていく。この間に生じた漢字と人々の壮絶な戦いが、本書で紹介されている。 当用漢字においては、漢字の字数制限や字体の統一が絶対的な基準として打ち出されたのであるが、実際の運用においてはかなり窮屈な面や不徹底な面を抱えていた。そこで生じたのが、基準に従うのか?、自由裁量が許容されるのか?、そもそも基準は誰が作るのか?、というような問いである。更に、漢字に込められた送信者や受信者の思い(これを「唯一無二」と呼ぶ)が上記の問いに絡み合い、漢字を巡って人々は紛争した。 たとえば、小学校に設置された「良い子の像」に彫られた文字を巡って学校とPTAが裁判で争った。「仲よく」の「仲」の字