平安朝では漢文による公文書の書記が文人たちの素養とされるなかで私的な内面を表現する文学的営為が展開した。本書は、文章経国思想のもと嵯峨朝から漢文学が解体する院政期を対象に、中国文学と日本文学の双方を大局的にとらえ、漢文脈によって形成される精神とその発露を捉えかえす。【第10回東京大学南原繁記念出版賞受賞作】 序 平安朝漢文学と文人 第一部 文人意識の端緒 第一章 嵯峨朝における文章と経国――漢文芸の二重の価値 第二章 嵯峨朝詩壇と個人の文学 第三章 菅原清公の「嘯賦」――趣味の意義 第四章 平安朝漢詩の変貌 第二部 九・十世紀交替期の文人と散文の個人化 第一章 都良香の散文における新動向 第二章 菅原道真の憂悶――閑居文学の変奏 第三章 紀長谷雄の自伝 第四章 平安朝散文史における九・十世紀漢文の意義 第五章 和漢の散文の交渉 第三部 平安朝中後期漢文学における定型性と固有性 第一章 兼明