文字は音声言語をうつす(移す・写す)手段であるとの説明がしばしばなされる。この説明は、文字で表記された文字言語が、音声で表現された音声言語に対応するという考え方に基づいている。しかしながら、音声言語と文字言語という二項対立だけで文字言語を見ていると、実のところ文字表記の現実のあり方が見えてこないのではないかと私は感じていた。また、『言語学大辞典〈第6巻〉術語編』の「文字」(pp.1340-1344)や「文字論」(pp.1346-1348)の項目では、表音と表語の対立が議論の中心にあり、「表記そのもの」に対する議論が希薄であるように感じられていた。 それに対して本書は、「表記そのもの」=「表記体系」を議論の中心に据えた本である。 原著は全7章からなる。それぞれの章の本文は「全体のレビュー+本文+まとめ」という構成を意識して書かれている。しかも、本文の内容をより深く理解するための問題が随所に設