おれはジャージを着て秋の野原をずったらずったら歩いていた。この世界はどうかしちまって、ジャージで心地よくすごせる季節が減ってるみたいなんだ。季節までおれに嫌がらせをするのか。おれは腹が立ってしまって、そこらへんの草をむしり取って、投げ捨てた。 「おい、きみ、草がかわいそうじゃないか」 いきなり話しかけられた。声の主をみてみると、一匹のタヌキがいた。戯画化されたタヌキなんかじゃない。『ダーウィンが来た!』の定点カメラに映ってるようなリアルなやつだった。 「リアルなタヌキが話すなよ」とおれ。 「それは問題じゃないんだ、命は大切にしなきゃいけない」とタヌキ。 煮て食ってやろうかと思ったが、あいにくおれのポケットにはiPhone 14 Proしか入っていなくて、タヌキを殺すのは無理だった。きみたちは素手でタヌキを殺せるか? 「もう、そういうのは聞き飽きたんだ。世界は絶望しているってなんでわからない