この地方も半月つづけて雨になった。湿気がまとわりつくようになった。露で濡れた芝生には寝っ転がることもできない。おれは一人、静かな部屋で椅子に座っていた。ただ、椅子に座っていた。人の気配もなかった。塩のスープと黒パンをとると、おれはまたベッドに戻った。ただ倦怠感だけがそこにはあった。寝るでもなく寝ないでもなく、おれはベッドに横たわって虚空のなかにあった。 コトン。 郵便受けになにか入る音がした。ドアに穴が開いているものが郵便受けというのならば。おれは冗談みたいにゆっくりとした動きで、ベッドから立ち上がり、ゆっくりとドアの方に向かった。そこには、梱包された二枚のマスクが落ちていた。こんな文明がない場所に、文明の切れ端が届いた。おれはおかしくなって、包みからマスクを取り出し、耳にひもをひっかけた。たしかにこれはマスクだ。マスクのにおいがする。これで外に出られるのだろうか。日光を浴びながら自転車を
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