本当の“豊かさ”とは何だろう 「どうしてこんなにたくさん人がいるのに、誰も目を合わせずにただ通り過ぎていくんだろう」。今から10年前、高校生だった私が新宿駅に降り立って感じた率直な気持ちだ。これまで当たり前のように歩き回っていた場所に突然感じた違和感。このとき私はちょうど、はじめてカンボジアに赴いた帰りだった。 カンボジアでは貧困に喘ぐ厳しい現実がある反面、人同士の生きたつながりが残されていた。首都プノンペンの中でさえ、赤の他人と路上で談笑することが珍しいことではなかった。首都から少しでも離れれば、食事の火をおこすところからすべてが手作業。当時は栄えている場所でもほとんど信号を目にすることがなく、道路を渡るにも運転手と歩行者がコミュニケーションをとらなければ成り立たない。不便どころか危険すら感じるのだが、その分誰かとつながっている、誰かに必要とされているような感覚の中で常に過ごすことができ