新型コロナウイルスの感染拡大抑止を目指す緊急事態宣言で、外出自粛や経済停滞の長期化が予想される。日本社会はどう変化し、我々はどのように対応すればいいのか。今月「パンデミックを生きる指針-歴史研究のアプローチ」と題したエッセーをオンラインで発表し話題となった、京都大人文科学研究所の藤原辰史准教授(43)に聞いた。【和田浩明/統合デジタル取材センター】
人間という頭でっかちな動物は、目の前の輪郭のはっきりした危機よりも、遠くの輪郭のぼやけた希望にすがりたくなる癖がある。だから、自分はきっとウイルスに感染しない、自分はそれによって死なない、職場や学校は閉鎖しない、あの国の致死率はこの国ではありえない、と多くの人たちが楽観しがちである。私もまた、その傾向を持つ人間のひとりである。 甚大な危機に接して、ほぼすべての人びとが思考の限界に突き当たる。だから、楽観主義に依りすがり現実から逃避してしまう——日本は感染者と死亡者が少ない。日本は医療が発達している。子どもや若い人はかかりにくい。1、2週間が拡大か制圧かの境目だ。2週間後が瀬戸際だ。3週間後が分水嶺だ。一年もあれば五輪開催は大丈夫だ。100人に4人の中には入らないだろう。そう思いたくなっても不思議ではない。希望はいつしか根拠のない確信と成り果てる。第一次世界大戦は1914年の夏に始まり191
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