もうながいこと、物書きの仕事と編集者の仕事を並行してやっている。物書きとしては、同時代の小説を読み、そこから触発されて自分の言葉を紡ぐことが主な仕事だ。言葉は悪いけれど、目の前の土を食って背後にクソを残し前に進むミミズのように、言葉を読み(食い)、書く(吐く)作業を延々と繰り返す。そうすることで、ミミズが通ったあとの土壌のように、言葉も豊穣になると信じている。 私が今回いただいたのは、言葉を「疑う」「信じない」ための本を選べ、というお題である。この記事の担当編集者が、「『疑う』という世間知の力が落ちてきているのではないか」「そのことを考察してほしい」と言うのだ。 正直に言うと、これはじつに難しいテーマだ。なぜかというと、「読む」という行為は、目の前にある言葉をひとまず「信じる」ところから始まるからだ。 これは「本に書かれている主張や内容を、鵜呑みにしろ」ということではない。額面どおりに「ひ