新日本古典籍総合データベース ※この記事では、国文学研究資料館所蔵品の画像データを適時加工して利用しています。 (CC BY-SA 4.0) ※画像は拡大できます。 【原文】 稲生平太郎《いのうへいたろう》ハ、藝州《げいしう》の人にて、其の年十六歳、妖怪の為に悩まさるゝ事、三十日。 然れども、怡然《いぜん》として抱かず、怪異 竟《つひ》に退くに至る。 所謂《いわゆる》、勇悍《ゆうかん》の士也と。 吾が養寿大夫人は、安藝少将吉良朝臣の女也。 寛政年間、平太郎、江府に至る。 夫人召して、其の怪異の終始を問ふ。 平太郎、時に六十餘歳、後にその始末を記し、その形状を圖に表して夫人に呈す。 然れども、藝矦《げいこう》深く此の事の世に聞こえん事を悪《にく》む故を以《も》て、秘して出さず。 発端に西州と云はるも又、此の故 歟《か》。 今、茲《ここ》に文化六 己巳《つちのとみ》六月、故《ゆえ》有りて其の本