ある衝撃的な発見 船を住まいとした漂海民、山中に庵を結んだ箕づくり、放浪する芸人や修験者――日本列島の周縁には、つい数十年前までさまざまな漂泊民が生きてきた。かれらに心惹かれるのは私だけではないだろう。「私たちの知らぬところに、私たちとは別の世界が存在」してきたという民俗学者の宮本常一の言葉に、どれほど胸をときめかせたか。 かれらの漂泊性、呪能、芸能は、しばしば縄文と結びつけて語られてきた。はたしてそうなのか。縄文文化の終焉から二千年以上経つ。それは根拠の薄弱な、縄文に仮託されたロマンにすぎない。考古学の研究者である私はそう考えてきた。その私が今回、海辺、北海道、南島という列島の周縁や漂泊民のなかに縄文の思想が生き残ってきたという、『縄文の思想』(講談社現代新書)を上梓することになった。 本書の核をなすのは、周縁の人びとが共有してきた縄文神話の議論だ。数年前の私なら、縄文神話という言葉を聞