フランスの伝統あるレストランガイドで日本人としてフレンチの世界で初めて三つ星を獲得したシェフ・岸田周三、33才。現役、最年少の三つ星だ。 岸田の料理は、フランス料理の命と言われる濃厚なソースに頼らない。選び抜いた食材と卓越した火加減の技術で勝負する。 岸田は、一つの気概を持って仕事に向き合う。「ここが、最前線」。その岸田の真骨頂が現れるのが、火入れの技術だ。 岸田は、肉に一度に火を入れない。オーブンで1分間焼いてはすぐに取り出し、レンジの上の温かい場所で5分間休ませる。オーブンの火力で焼くのではなく、余熱で肉に火を入れる。1分焼いて、5分休ませることを繰り返して2時間半。仕上がった肉は、芯(しん)まで火が通っているが、生焼けとみまがうほどみずみずしい。 これこそ岸田が考える最前線の料理だ。 1日16時間、厨房(ちゅうぼう)に立ち、ひたすら料理と向き合う岸田は、仕込みの合間、常に新作料理のこ