政治と複数性―民主的な公共性にむけて [著]斎藤純一[掲載]2008年11月2日[評者]苅部直(東京大学教授・日本政治思想史)■鍵は他者の声を聴きとる「感性」に かつてトマス・ホッブズは『リヴァイアサン』の中で、政治社会ができあがる前の段階として想定される自然状態では、「人間の生は孤独で、貧しく、汚らしく、野蛮で、そして短い」と語った。実は、いまの先進社会で底辺に追い込まれた貧困層は、まさしくこれと同じ状況にある。 この本に見えるそうした指摘は衝撃的である。だが、社会福祉や労働政策の対象ではなく、あくまでも「政治」、とりわけデモクラシーの本質をゆるがすものとして、この問題を著者は位置づけ、考えぬこうとする。 かつて20世紀の福祉国家は、社会保障の制度を通して、見知らぬ人間どうしが、おたがいを苦境から救う紐帯(ちゅうたい)を作りあげた。しかし、ここ20年ほどは、グローバル化と自由市場の暴威が