論文の質が落ちている 内田樹氏の著作『生きづらさについて考える』は、現下日本と世界が抱える問題を政治、思想、教育など多方面から論じた優れた論集だ。評者には、日本の大学院に関する内田氏の考察が興味深かった。 〈人口当たりの修士・博士号取得者が主要国で日本だけ減っていることが文科省の調査で判明した。これまでも海外メディアからは日本の大学の学術的生産力の低下が指摘されてきたが、大学院進学者数でも、先進国の中でただ一国の「独り負け」で、日本の知的劣化に歯止めがかからなくなってきている。 人口当たりの学位取得者数を2014〜2017年度と2008年度で比べると、修士号は、中国が1.55倍、フランスが1・27倍。日本だけが0・97倍と微減。博士号は、韓国が1・46倍、イギリスが1・23倍。日本だけが0・90倍と数を減らした〉 評者として気になるのは、文科系の論文の質だ。大学院は修士課程が2年で博士課程