資料は豊富にあった。新聞や雑誌の記事はもとより、この実験を題材にしたリアリティ番組や映画もあった。スタンフォード大学は数年前にジンバルドーの学術資料アーカイブの公開を始めていた。ル・テクシエはジンバルドー本人にも会って話を聞いたほか、実験に従事した研究者チームや被験者たちとも話した。 だが、ル・テクシエはそこで知ったことに腰を抜かした。ジンバルドーは中立的な立場の実験者ではなかったどころか、助手たちと共に積極的に被験者の行動に影響を及ぼそうとしていた。なにしろジンバルドー本人が刑務所所長の制服を着ていたのである。 ル・テクシエは言う。 「望み通りの実験結果を得るために、看守役の人が何をすべきなのか、どのように振る舞うべきなのか、はっきりと指示されていたようなものでした。看守は、『あなたたちには米国の刑務所の環境を変える力があるんです』と何度も言われていました。あの実験全体が、刑務所がいかに