村上春樹氏の作品には、正しいかどうか、と自問する場面がよく出てくる。「村上春樹の読みかた」という本で、著者の一人、早稲田大学教授の石原千秋氏も「ノルウェイの森」のセックス場面などを例にそのことをるる解説している。氏によると「1Q84」のBook1、2に「正しい」とそれに類する単語は14回も出てくるそうだ。 ぼくの場合は以前、比較的初期の短編「蛍」を読んで、「正しい」という言葉の使われ方に興味を持った。自殺した友人の恋人と関係して「そうすることが正しかったのかどうか僕にはわからない」という箇所と共に、次の文章も印象に残った。<僕にしても彼女にしても本当は十八と十九のあいだを行ったり来たりしている方が正しいんじゃないかという気がした。十八の次が十九で、十九の次が十八−−それならわかる。でも彼女は二十歳になった> 「正しい」という言葉には、村上氏の良き対談相手だった心理学者の河合隼雄氏もこだわっ