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ブックマーク / dain.cocolog-nifty.com (12)

  • 女性の声を奪う力と、それに抗う力『舌を抜かれる女たち』

    表紙はピカソ、「ピロメラを犯すテレウス」だ。テレウスは、義理の妹のピロメラを人気のない場所へ連れ込み、レイプする。終わった後、ピロメラは、テレウスに告げる。 「もう恥じてなどいない、私はこのことを広言する。機会があれば、人前で誰にでも言うつもりです。天もそれを聞くでしょう、もし天に神がおいでなら神も私の言うことを聞かれるでしょう」 告発を恐れたテレウスは、ピロメラの舌を切り、置き去りにする。オウィディウスの『変身物語』の一幕だ[wikipedia:ピロメーラー]。このように、女を黙らせ、女の言葉を軽んじ、権力から遠ざけようとする動きは、古来からあったという。そのメカニズムを告発したのが、『舌を抜かれる女たち』になる。 著者はケンブリッジ大教授のメアリー・ビアード、元は講演録で、昨今の MeToo 運動を受けて大幅に加筆したもの。古代ギリシャ・ローマからの文芸や美術をひも解きながら、女性の声

    女性の声を奪う力と、それに抗う力『舌を抜かれる女たち』
  • ミスが全くない仕事を目標にすると、ミスが報告されなくなる『測りすぎ』

    たとえば天下りマネージャーがやってきて、今度のプロジェクトでバグを撲滅すると言い出す。 そのため、バグを出したプログラマやベンダーはペナルティを課すと宣言する。そして、バグ管理簿を毎週チェックし始める。 すると、期待通りバグは出てこなくなる。代わりに「インシデント管理簿」が作成され、そこで不具合の解析や改修調整をするようになる。「バグ管理簿」に記載されるのは、ドキュメントの誤字脱字など無害なものになる。天下りの馬鹿マネージャーに出て行ってもらうまで。 天下りマネージャーが馬鹿なのは、なぜバグを管理するかを理解していないからだ。 なぜバグを管理するかというと、テストが想定通り進んでいて、品質を担保されているか測るためだ。沢山テストされてるならバグは出やすいし、熟知しているプログラマならバグは出にくい(反対に、テスト項目は消化しているのに、バグが出ないと、テストの品質を疑ってみる)。バグの出具

    ミスが全くない仕事を目標にすると、ミスが報告されなくなる『測りすぎ』
  • 人類を平等にするのは戦争『暴力と不平等の人類史』

    貧富の差は拡大する一方。一向に格差の是正が進む気配はない。 日に限った話ではない。北米、南米、中国、東南アジア、アフリカ……世界中、至るところで格差は絶賛拡大中だ。格差の拡大は、人類社会の宿命なのだろうか? 古今東西の不平等の歴史を分析した、ウォルター・シャイデル『暴力と不平等の人類史』を読むと、これは事実ではないことが分かる。たしかに貧富の不平等はあるが、これを一掃する平等化が果たされる。人類の歴史は、不平等の歴史でもあるが、平等化の歴史でもあるのだ。 書の目的は、この平等化のメカニズムを解明するところにある。データと史料とエビデンスでもって緻密に徹底的に分析する。 不平等のメカニズム まず著者は、不平等は人間社会の基的特徴だという。人類が糧生産を始め、定住化と国家形成を行い、さらに世襲財産権を認めて以降、不平等が進むのは既定の事実だと述べる。なんとなくそうではなかろうかで済ませ

    人類を平等にするのは戦争『暴力と不平等の人類史』
  • 駅を見る目が一変する『駅をデザインする』

    出口は黄色、入口は緑、丸の内線は赤い○。何気なく目にしている駅案内をデザインしたのが、この著者だ。 著者は、地下鉄の初乗り30円だった1972年から、駅の公共空間における問題解決のデザインを進めてきた。書は、その豊富な事例とともに、彼自身の熱い思いを受け取るだろう。 そのデザイン思想は、「サインとはメディアである」の一言にまとめられる。そして、このメディアを、「案内サイン」と「空間構成」の2つの方向性から説明する。すなわち、パブリックな空間における、提供者と利用者のコミュニケーションを図る際、「言葉」に相当するのが案内サインであり、「場面」に相当するのが空間構成だというのだ。 「案内サイン」の事例は、営団地下鉄(今は東京メトロ)での改善になる。まず、多様な形式の案内表示を統一し、シンプルな記号体系にまとめる。その上で、乗車系・降車系のそれぞれの利用者動線に沿った組み合わせで提示する「サイ

    駅を見る目が一変する『駅をデザインする』
  • 怒りの根っこには必ず、「私が正しい」という思いがある『怒らない練習』

    怒らない人生が欲しい人に。 マスゴミ、経済学者、暴走老人と、世に怒りの種は尽きまじ。新聞読まないのは心の平穏のためだし、オフィスではひたすら平常心、の罵倒は御褒美です。それでも「イラッ」とくる瞬間が怖い。いったん怒りのスイッチが入ったら、どんどんエスカレートして逆上するから。そして、ずっと後になっても何度となく思い出してはネチネチ自分を責めるハメになるから。 なんとかせねばと読んだのが『怒らないこと』、これは素晴らしいだった。なぜなら人生変わったから。「一冊で人生が変わる」ような軽い人生なのかと言われそうだが、違う。「怒り」の悩みは常々抱えており、ガン無視したり抑圧したり、王様の耳はロバの耳を繰り返してきた。上手くいったりいかなかったり、アンガー・マネジメントはかくも難しい。だが、そういう苦悩を重ねてきた結果、この一冊をトリガーとして一変させるだけの下準備になっていたのだろう。とにかく

    怒りの根っこには必ず、「私が正しい」という思いがある『怒らない練習』
  • 生きるとは、自分を飼いならすこと「老妓抄」

    「短篇の傑作といえば?」でオススメされたのが、岡かの子の「鮨」。そうかぁ…と読み直したら、わたし自身について発見を得た。嬉しいやら哀しいやら。 テクストは変わらない。だから、わたしの変化が三角測量のように見える。わたしという読み手は、自ずと「わたし」にひきつけて読む。「わたし」と同姓の、同年代のキャラクターや、発言や考えに似たものを探しながら読む。結果、「鮨」なら潔癖症の少年、「老妓抄」だと老妓に飼われる男の視線に沿う読みだった。それはそれで旨い短篇を楽しめた。舞台やキャラや語りは、さらりと読めてきちんと残る名描写だから。 でも違ってた、やっと分かった、ある感情が隠されているのだ。それは、ファナティック。叫びだす熱狂ではない。かつてマニアックだったもののベントに失敗して、溜まった余圧に動かされている残りの人生の話なんだ。だからおかしいほどに"こだわる"。老妓が余芸にあれほどまで熱を込める

    生きるとは、自分を飼いならすこと「老妓抄」
  • わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: 東大教官がすすめる100冊

    東大教官が選んだ新入生向けのブックリストとして、新書「東大教官が新入生すすめる」と、紀伊國屋書店のサイト[参照]がある。全部で1600冊程と膨大なので、まとめた。まとめるだけでは面白くないので、100冊に絞ってランキングした。 ■東大教官の観点 以下の3つの観点から選書している。 1) 私の読書から――印象に残っている 2) これだけは読んでおこう――研究者の立場から 3) 私がすすめる東京大学出版会の 1) は、読書経験の貧富がハッキリ見える。めったなを勧めるわけにはいかない。ほとんどが厳めしい古典、大御所を占める。ところが、ウケ狙いか、小松左京や村上龍、コミック「棒がいっぽん」などを推す教官がいて面白い。 2) の意味を拡大解釈する教官多し。何十巻もある「○○全集」を指定してくる人もいる。ゼミ生になったら生き字引代わりにでもしようとするつもりかしらん。オマエも全読してねぇだろ!

    わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: 東大教官がすすめる100冊
  • 脱怒ハック「怒りについて」

    怒らずに生きる技術。つまらないことにイライラせずに生きたいもの。 実をいうと、わたしはかなり怒りっぽい。頭からっぽの政治家に毒づき、無脳なキャスターは○ねばいいのにと気でヒートアップする。子どもの反発に腹を立て、嫁さんと口論しては感情的になる。朝から晩までプリプリしてる日もある。 だからこそ、怒らずに生きるにはどうすればいいか、考えて、読んで、試した。その過程+とりあえずの結論は、「怒らないこと」はスゴや、正しい怒り方になる。左記のエントリには書かなかったけれど、コヴィー「7つの習慣」とアーヴィンジャー「箱」にはお世話になったっけ。 そして今回、ローマの賢者・セネカの「怒りについて」で思った、これは「脱怒ハック」だってね。怒りそうになったら、脱兎のごとく逃げ出そう。これぞ脱怒ハックなり。つまり、怒りに満ちた人生を脱出するための技術が(おぞましい具体例つきで)紹介されているのだ。「怒る技

    脱怒ハック「怒りについて」
    kenjiro_n
    kenjiro_n 2010/04/27
    怒ることが良くないように書かれているのはこの本なのかそれともこの書評なのか。人の弱さを認めようとしないこういった考え方には正面から反対したい。
  • 陰毛と無毛のあいだ「芋虫」: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

    乱歩のアレを丸尾末広がマンガにしたやつ。濃く、エロく、成人限定。 トシとったなぁと実感するシーンは日常に多々あるが、非日常では「白板に反応しなくなった」、これに尽きる。無毛にはぁはぁしてたのは遠い日のこと、今では茂えてないと、萌えないし燃えない。密生した箇所に、強い欲情を感じる年頃なのだ。これは、オトナになったというよりもむしろ、オヤジになったんだなぁとつくづく思う。 マンガ化された「芋虫」で、もっとも気に入ったのは、語り手でもあるのジャングルのようなそれ。屈した情欲が、下半身に燃え上がっているように映える。さしずめ、黒い炎というべきだろう。濃い陰毛は、口でどれほど否定しても、淫蕩の証拠なのだと解釈する。いっぽう夫はすべすべとした肉塊のようで対照的なつくりとなっている。 傷痍軍人である夫との生活感が変にリアルで、あのうだるような夏のムシ暑さがフレームを通して伝わってくる。夫は戦争で両手

  • 自分でエラーに気づくために「失敗のしくみ」

    『失敗のしくみ』は、現場のリスクマネジメントの好著。「失敗」の原因と対策について、ケアレスミスから重大な過失まで幅広くカバーしている。見開き左右に文+イラストの構成で非常に分かりやすい。 仕事上、センシティブな情報に触れることがあるし、失敗の許されない作業もある(この「許されない」とは、失敗したら損害賠償という意)。クリティカルな作業は、複数人でレビューを経た手順を追い、チェックリストを指差呼称するのがあたりまえ。それでもミスを完全になくすことはできない。テストファイルを番環境に突っこんだり、間違ったスクリプトを実行したり、ヒヤリハットは忘れた頃にやってくる。 ありえないミスとして、単位の取り違えも有名だろう。1999年に起きた火星探査機の墜落事故は、メートルとフィートを間違えたことが原因だし、2010年早々に発生した「2000年問題」は、10進数(10)と16進数(0x10)を取り違

    自分でエラーに気づくために「失敗のしくみ」
  • 「見えない都市」と銀河鉄道999

    マルコ・ポーロが架空の都市をフビライ・ハンに語る幻想譚。 …なのだが、どうしても銀河鉄道999(スリーナイン)を思い出してしまう。というのも、999に出てくるさまざまな「惑星」は、いまの現実のいち側面をメタファーとしてクローズアップさせていたことに気づくから。 「見えない都市」では、55の不思議な都市(まち)が語られる。死者の住む都市といえばありきたりだが、死者のために地上の模型を地下に構築する都市。全てのモノを使い捨てにし、周囲に堆積した塵芥に潰される運命を待つ都市。地面に竹馬のような脚を立て、雲上に築かれた空中都市。 「銀河鉄道999」でも、奇妙な惑星(ほし)が出てくる。ルールや法律が一切ない惑星。すべてが化石となる惑星。密告を恐れて声をひそめる沈黙の惑星。命の尽きたペットが、主人を偲んで暮らす惑星。金属やプラスチック製のものが一切なく、すべてが枯木と枯葉だけでできた惑星。 異様な都市

    「見えない都市」と銀河鉄道999
    kenjiro_n
    kenjiro_n 2009/12/18
    前者の良い紹介。しかし「メディアの違いを理解せよ」というとあるアニメの台詞があるが、この2作を比較するにあたってその辺考慮されているんだろうかと気になった。
  • 「最近の若者はダメ論」まとめ

    近ごろ「最近の若者はダメ」が、(また)流行っているようなので、自エントリをまとめてみる。もし、「最近の若者は…」を見かけたら、ここを思い出してほしい。 きっかけは、職場の飲み会。「近ごろの若い連中はダメだ!」と一席ぶつオッサンがいたこと。それって、昔から言われてますね、と返すと、「何年何月何日に誰が言った!?出典どこだよ?何の根拠でそう断定できるんだよ?」ってオマエは小学生か。そこで調べてみたところ… ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 1. 近ごろの若者は当事者意識がなく、意志薄弱で逃げてばかりいて、いつまでも「お客さま」でいる件について [URL] 「最近の若者はダメだ」と昔から言われているが、特に今の若者はひどい。当事者意識が欠如しており、いつも何かに依存し、消費し、批判するだけの「お客さま」でいつづけている――という小論。出典を隠すと、内田

    「最近の若者はダメ論」まとめ
    kenjiro_n
    kenjiro_n 2009/12/18
    俗流若者論のまとめ。結局こういうのは高齢者のエンタメという側面がある以上絶えることはないんだろう。
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