「誰が、どれだけの損失を抱えているのか、世界中の誰もが分からない」 ロケット工学、カオス理論、ゲーム理論、情報工学――。様々な先端領域の技術を駆使した金融取引のなれの果ては、人知ではもはや制御できないカオスの世界。技術を支配してきたはずの人間が、逆に技術に支配されている事実を、サブプライム問題は我々に突きつけた。 今、我々は人間としての存在の在り方が問われている。『存在と時間』を著したハイデガーの研究で有名な哲学者である木田元・中央大学名誉教授に話を聞いた。 (聞き手は日経ビジネス オンライン副編集長 真弓 重孝) 木田 元 20世紀の半ばぐらいまでは、何となく人間が技術をコントロールしていると言えたような気がします。しかし、IT(情報技術)化みたいなものが進んできてからは、技術が一種、自己運動を起こして、人間がそれに操られているような気がします。 昔から、科学は人間の理性が生み出し、その