大差のついた最終回、仲間たちがみんな立ち上がり、身を乗り出して声をからしている中で、佐々木朗希はひとりベンチ奥に腰を下ろしたままじっとグラウンドを見つめていた。胸に何が去来していたのか。エースであり、4番打者の彼は甲子園をかけた決勝戦という舞台に立つことのないまま、最後の夏を終えた。 ゲーム直後、すぐに敗れた大船渡ベンチ前で国保陽平監督がメディアに囲まれた。異例の光景である。矢継ぎ早に質問が飛ぶ。 なぜ、佐々木を投げさせなかったのか。 「故障を防ぐためです。連投で、暑いこともあって。投げたら壊れる、投げても壊れないというのは未来なので知ることはできないんですけど、勝てば甲子園という素晴らしい舞台が待っているのはわかっていたんですけど、決勝という重圧のかかる場面で、3年間の中で一番壊れる可能性が高いのかなと思いました。投げなさいと言ったら投げたと思うのですが、私には決断できませんでした」 前