タグ

ブックマーク / note.com/sayusha (52)

  • ところで、愛ってなんですか? [第7回]|左右社

    デビュー歌集『夜にあやまってくれ』から現在にいたるまで一貫して「愛」を詠みつづけてきた歌人・鈴木晴香さんが、愛の悩みに対してさまざまな短歌を紹介します。月一回更新予定です。バックナンバーはこちら この店をオープンした日を思い出していた。 たいていの場合、店を始める前には計画を立てるのだろう。いつまでに何がどれくらいどんなふうに必要なのか。 でも私はすべてが行き当たりばったりだった。ひかる看板も、開店してから買いに行ったのだ。計画性がまるでない、というより、未来を決めてしまうのが怖かった。映画の予約を取りたくない。旅行の行き先を決めたくない。私の未来が、私によって規定されてしまうことを、極端に恐れていた。 反対に言えば、未来を定めないことを、異常なまでに愛していた。 恋だってそうだ。カレンダーに恋がはじまる日を書き込むことなんてできない。 *** ここは〈BAR愛について〉。店のどの隅にも、

    ところで、愛ってなんですか? [第7回]|左右社
    kiku72
    kiku72 2024/08/15
  • ところで、愛ってなんですか? [第4回]|左右社

    デビュー歌集『夜にあやまってくれ』から現在にいたるまで一貫して「愛」を詠みつづけてきた歌人・鈴木晴香さんが、愛の悩みに対してさまざまな短歌を紹介します。月一回更新予定です。バックナンバーはこちら 日曜日は、空が明るくなり始めたらBARを開けることにしている。朝はいい。姿の見えない鳥が鳴いていたり、昨日の続きを酔っている人がいたりする。人と世界、人と人との距離が、少しだけ離れている感じ。魂もまた、躰からちょっと遠くに行ってしまっているみたいだ。そんなとき、も人間も伸びをする。遊離した魂を元の場所に詰め直すみたいな静かな作業だ。 薄いひかりが積もったカウンターを眺めていると、からんとベルを鳴らしながら扉が開いた。濃紺のスーツの女性が淡い太陽を背に短く会釈をする。真新しいのに襟も袖も不思議なくたびれかたをしていた。 「東京で働こう思っていま就活してて、でももう疲れちゃって」 「東京には大学から

    ところで、愛ってなんですか? [第4回]|左右社
    kiku72
    kiku72 2024/05/16
  • 【無料公開】水野しず『正直個性論』/序文(今から常識では考えられないほど正直な個性の話をします)|左右社

    ミスiD2015グランプリを受賞後、文筆やイラストを中心にマルチに活躍する水野しず。2023年4月に初の論考集『親切人間論』を発表し、生活の些細な瞬間に根ざしたオリジナルな問いを深め、饒舌かつ鋭く切り込む無二の書き手として注目を集めています。 今回テーマとするのは「個性」。noteでの連載マガジン「おしゃべりダイダロス」で好評を集めたエッセイに大幅な加筆修正を加え、『正直個性論』として5月末に刊行します。 刊行を記念して、序文を無料公開! お楽しみください。 序文(今から常識では考えられないほど正直な個性の話をします) 正直なことを言います。というか、このは徹頭徹尾「個性」に関して正直なことしか言うつもりがありません。と、前置きしたところで、書も市場に流通している商品の一端ですから、読者としてはある程度手心や手加減が加えられているものだろうという含みを抱いたままページをめくるのかもしれ

    【無料公開】水野しず『正直個性論』/序文(今から常識では考えられないほど正直な個性の話をします)|左右社
    kiku72
    kiku72 2024/04/19
    “noteでの連載マガジン「おしゃべりダイダロス」で好評を集めたエッセイ”
  • ところで、愛ってなんですか? [第3回]|左右社

    デビュー歌集『夜にあやまってくれ』から現在にいたるまで一貫して「愛」を詠みつづけてきた歌人・鈴木晴香さんが、愛の悩みに対してさまざまな短歌を紹介します。月一回更新予定です。バックナンバーはこちら 暗闇に包まれていると、自分の躰がどこまであるのか、その輪郭がわからなくなる。どうしてもそれを確かめたくて、誰かを、何かを抱きしめたくなったりする。今はベッドに潜り込んだままのぬいぐるみを抱いて、私と夜の位置を確かめていた。台風みたいに時々じゃない。夜は毎日訪れる。そのことを恐れているわけではなかった。ただ、かならず繰り返す夜の律儀さに打ちのめされて、その生真面目さにちょっと呆れてしまうのだ。いつだって気まぐれの愛や恋に、慣れっこになっていたから。 胸に抱いているのぬいぐるみ。耳を引っ張っても、目を触っても嫌がらない。このにプラスチックの黒い目を縫い付けた誰かが、いまこの星のどこかで小さな息を

    ところで、愛ってなんですか? [第3回]|左右社
    kiku72
    kiku72 2024/04/15
    “一貫して「愛」を詠みつづけてきた歌人・鈴木晴香さんが、愛の悩みに対してさまざまな短歌を紹介”
  • ところで、愛ってなんですか? [第2回]|左右社

    デビュー歌集『夜にあやまってくれ』から現在にいたるまで一貫して「愛」を詠みつづけてきた歌人・鈴木晴香さんが、愛の悩みに対してさまざまな短歌を紹介します。月一回更新予定です。バックナンバーはこちら BARの開店よりずっと前から、あたりは暗い。冬だ。 夏と冬どっちが好き、という質問に、生きている間にときどき巡り合う。その問いが投げかけられるのは、当然かもしれないけれど決まって夏か冬だ。そんなとき、夏には冬と、冬には夏と答える。だって、いま目の前にないものを愛したくなるものでしょう? ここは愛の相談所〈BAR愛について〉。店を開けてしばらく棚の埃を拭いていると、埃がライトに当たりながらきらきらと落ちてきれい。ひかりにあたるとき、埃はひかりのぶん重くなったりするんだろうか。 冷たい風に気づいて振り向くと、入り口のドアが開いている。ダークグレーのスーツに水色のシャツ、青いネクタイをきっちりつけた男

    ところで、愛ってなんですか? [第2回]|左右社
    kiku72
    kiku72 2024/03/15
  • 【2万7千字無料公開】高橋和夫『パレスチナ問題の展開』、はじめに〜第二章まで試し読み公開!|左右社

    2023年10月7日の、イスラム組織ハマスによるイスラエルへの攻撃と、イスラエル軍の報復攻撃から4ヶ月以上が経過しました。ガザ地区の保健当局によると、これまでの死者数は3万人近くにのぼるといいます。 虐殺が続くこの異常事態の背景には、何がそびえ立っているのか? 中東研究の第一人者・高橋和夫先生による『パレスチナ問題の展開』は、「複雑で難しい」と考えられているパレスチナ問題を、丁寧に解きほぐす最良の入門書です。 書の読みやすさ、わかりやすさをもっと多くの方に知ってもらうべく、冒頭を2万7千字ほど無料公開いたします。2021年刊行の書は、パレスチナ問題以前のパレスチナから、ハマスとネタニヤフ、そしてバイデン米大統領就任までの範囲をカバーしています。数ある入門書の中から何を読んでいいかわからないという方に、ぜひおすすめしたい一冊です。 ★★★ 単行は各書店、ネット書店様でご購入いただけます

    【2万7千字無料公開】高橋和夫『パレスチナ問題の展開』、はじめに〜第二章まで試し読み公開!|左右社
    kiku72
    kiku72 2024/02/20
  • 結婚/町田康|左右社

    【第51話】「海道一の親分」として明治初期に名をはせた侠客、清水次郎長。その養子であった禅僧・天田愚庵による名作『東海遊侠伝』が、町田版痛快コメディ(ときどきBL)として、現代に蘇る!! 月一回更新。 ★既刊『男の愛 たびだちの詩』(第1話〜24話収録)、大好評発売中★ 林の中で次郞長は八尾ヶ嶽に言った。 「俺と結婚してくんねぇか」 八尾ヶ嶽は戸惑った。なぜならその申し出が余りにも唐突かつ突飛であったからである。八尾ヶ嶽は珍しく狼狽して言った。 「そ、それは、おめぇ。無理だ。第一、俺たちは男同士じゃねぇか。男同士で所帯は持てねぇ」 慌てて早口になった八尾ヶ嶽を次郞長は無言で見つめた。 柔らかい午後の日が射す林の中に沈黙が訪れた。次郞長はなにかに耐えるような、苦しげな表情を浮かべていた。そのうち次郞長の顔面がみるみる紅潮し、と同時にその頬が膨らんでいき、それが極に達して、次郞長は、ぷっ、と吹

    結婚/町田康|左右社
    kiku72
    kiku72 2023/12/08
  • 【無料公開・試し読み】樫永真佐夫『道を歩けば、神話 ベトナム・ラオス つながりの民族誌』プロローグ&第1話(一部)|左右社

    【無料公開・試し読み】樫永真佐夫『道を歩けば、神話 ベトナム・ラオス つながりの民族誌』プロローグ&第1話(一部) ボクサーで文化人類学者の樫永真佐夫さんの『道を歩けば、神話 ベトナム・ラオス つながりの民族誌』が2023年11月中旬に刊行されます。 書は、四半世紀にわたりベトナム・ラオスをフィールドワークしてきた樫永さんの初の紀行エッセイ。 「はじまり」の地をめぐって見えてきた、民族や“くに”の「つながり」とは? 黒タイの魔女、叩き上げのアウトサイダー研究者、現地の文化プロデューサー……樫永さんが現地で親交を深めてきた、個性ゆたかな人々とのエピソードを交えながら、二国の歴史をたどります。 刊行を記念し、プロローグと第1話の一部を無料公開しています。 *ページは試し読み用に作成したもので、実際の紙面とはデザインが異なります。 プロローグ 二〇一九年秋の暮れ、ハノイからルアンナムターまで

    【無料公開・試し読み】樫永真佐夫『道を歩けば、神話 ベトナム・ラオス つながりの民族誌』プロローグ&第1話(一部)|左右社
    kiku72
    kiku72 2023/10/25
    “本書は、四半世紀にわたりベトナム・ラオスをフィールドワークしてきた樫永さんの初の紀行エッセイ。”
  • 【和田靜香選ブックリスト】「50代で一足遅れてフェミニズムを知った私」と32冊|左右社

    和田靜香さん新刊『50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと』の刊行を記念して、一部書店さまで2種類のフェアを順次開催予定でございます。 フェアA:50代著者&20代編集者による、将来の不安を乗り越えるための20冊 フェアB:政治分野のジェンダーギャップを考える12冊 期間内にフェアに立ち寄れない方のためにも、ブックリストと推薦コメントを大公開! 書店さまからのフェア希望もまだまだ承っておりますので、左右社までお問い合わせくださいませ。 ↓↓試し読みで1万字弱を公開中↓↓

    【和田靜香選ブックリスト】「50代で一足遅れてフェミニズムを知った私」と32冊|左右社
    kiku72
    kiku72 2023/09/21
  • 【無料公開】榊原紘『推し短歌入門』/「はじめに」&「本書の楽しみ方」|左右社

    2023年10月末刊行、榊原紘『推し短歌入門』より「はじめに」「書の楽しみ方」を公開。そして書の見どころをピックアップします。 「脚が5メートルある!」「顔がルーブル美術館(=美術品のように美しい)」などなど、オタ活においてはミームや誇張表現に頼ってしまい、語彙喪失状態になってしまいがち。 それでも、好きなものをもっと丁寧に、自分だけの言葉にしたい! そんな思いに応える短歌の入門書です。お楽しみに! はじめに オタクは短歌に向いている いきなりですが、想像してみてください。 アニメでも漫画でもいいのですが、三浦春陽(みうらはるひ)と二宮夏樹(にのみやなつき)という架空のキャラクターがいるとしましょう。 春陽が夏樹の意見に対して、何かを言います。すると、夏樹はこう返しました。 「春陽もそんなこと言うんだね」。 ここで、「も」に違和感を覚えた人は冴えています。夏樹は「他の誰か」を想像してい

    【無料公開】榊原紘『推し短歌入門』/「はじめに」&「本書の楽しみ方」|左右社
    kiku72
    kiku72 2023/09/21
    “それでも、好きなものをもっと丁寧に、自分だけの言葉にしたい!  そんな思いに応える短歌の入門書”
  • 地獄の南蛮船/町田康|左右社

    【第47話】「海道一の親分」として明治初期に名をはせた侠客、清水次郎長。その養子であった禅僧・天田愚庵による名作『東海遊侠伝』が、町田版痛快コメディ(ときどきBL)として、現代に蘇る!! 月一回更新。 ★既刊『男の愛 たびだちの詩』(第1話〜24話収録)、大好評発売中★ 弘化三年七月。次郞長は三河で知り合った相撲取り、八尾ヶ嶽宗七とともに伊勢にいた。次郞長は八尾ヶ嶽と離れがたく思っていた。その訳は。 そう。八尾ヶ嶽の顔貌が、かつて次郞長が思いを寄せた福太郎と酷似していたからである。そのうえ、角力の興行で全国、いろんなところへ行ったことのある八尾ヶ嶽は清水港のこともよく知っており、そんな話ができるのも次郞長はうれしかった。 それならば次郞長が、「こいつ、もしかして福太郎人なんじゃネーカ」と思ったとしても不思議ではない。だけど次郞長はそう思わなかった。なぜか。 体格がまるで違っていたからであ

    地獄の南蛮船/町田康|左右社
    kiku72
    kiku72 2023/08/04
    “町田版痛快コメディ(ときどきBL)として、現代に蘇る!! 月一回更新。”
  • 次郞長、八百ヶ嶽の窮境を救ふ/町田康|左右社

    【第45話】「海道一の親分」として明治初期に名をはせた侠客、清水次郎長。その養子であった禅僧・天田愚庵による名作『東海遊侠伝』が、町田版痛快コメディ(ときどきBL)として、現代に蘇る!! 月一回更新。 ★既刊『男の愛 たびだちの詩』(第1話〜24話収録)、大好評発売中★ 恋の恨みで密告したコン吉を制裁して気が済んだ次郞長は三河を去り、気儘なやくざの旅に出て尾張の知多郡、大野村にやってきた。伊勢湾に面して活気に満ち、海運業も盛んな土地である。ということはどういうことか? そう、金と物と人が溢れているということである。ということはどういうことか? そう、娯楽に満ちあふれているということである。そして当時の娯楽と言えば? そう、演劇と売春と賭博である。 という訳で大野村に足を踏み入れた次郞長は、当たり前のように博奕場に直行した。 ここでも次郞長は顔である。博奕宿の前に立った途端、 「あ、これはこ

    次郞長、八百ヶ嶽の窮境を救ふ/町田康|左右社
    kiku72
    kiku72 2023/06/03
  • 【好評発売中】『覚醒せよ、セイレーン』によせて、担当編集よりレビュー|左右社

    ローマ神話を描いた、ラテン語古典文学の最高峰である『変身物語』を大胆に語りなおした短編集『覚醒せよ、セイレーン』(ニナ・マグロクリン/小澤身和子訳)。神々に蹂躙される女性たちの視点から、怒りと希望、そして未来への祈りを掬い上げて描いた作は、フェミニズム文学としても注目されています。 好評発売中の書担当編集が、『覚醒せよ、セイレーン』に登場するけれど自らは語らない、ある女性についてのレビューを書きました。気になった方は、ぜひ手に取ってみてくださいね。 ねえプロセルピナ、あなたは?『覚醒せよ、セイレーン』担当編集 堀川夢 みんながこちらを向いて、呼びかけて、語って、叫んでいる。ローマ神話に登場する34の女性たちの声が収められた『覚醒せよ、セイレーン』。語っていない女の子が、ひとりいる。 ねえプロセルピナ、いなくなったあなたをみんな捜していたよ。アレテューサも、セイレーンも。地底でロックの女

    【好評発売中】『覚醒せよ、セイレーン』によせて、担当編集よりレビュー|左右社
    kiku72
    kiku72 2023/05/30
    “【6/5発売】『覚醒せよ、セイレーン』によせて、担当編集よりレビュー”
  • やくざの制裁はとどめを刺さない/町田康|左右社

    【第44話】「海道一の親分」として明治初期に名をはせた侠客、清水次郎長。その養子であった禅僧・天田愚庵による名作『東海遊侠伝』が、町田版痛快コメディ(ときどきBL)として、現代に蘇る!! 月一回更新。 ★既刊『男の愛 たびだちの詩』(第1話〜24話収録)、大好評発売中★ 一方その頃、弁五郎はと言うと、コン吉という百姓の家に隠れていた。村はずれの小さな百姓や、小川武一と次郞長が復讐しに来ることを予測して、いち早く逃亡したのである。 「いいか。俺が匿ってやるから、こっからけっして出るんでねぇぞ」 コン吉はそう言うと弁五郎を家の裏手の物置に案内した。畳二畳分ほどの当の物置で、農具や肥料などがしまってあった。狭い、汚い、暗い、臭いところであった。案内された弁五郎は板壁の破れ目から外の様子を窺った。裏は畠になっており、少し先の土手には、春うらら、桜が咲いており、その下を行き交う人はみなニコニコ笑い

    やくざの制裁はとどめを刺さない/町田康|左右社
    kiku72
    kiku72 2023/05/06
  • 朱位昌併エッセイ連載「霜柱を踏みしめて アイスランド、土地と言葉と物語」#4|左右社

    アイスランド在住の詩人・翻訳家・研究者の朱位昌併さんが、言葉や文化の切り口からアイスランドを紹介する連載、「霜柱を踏みしめて アイスランド、土地と言葉と物語」。第4回のテーマは「雪」です。ヴァイキングが流氷まみれのフィヨルドを見て名付けたという「氷の国」アイスランドは、雪とともに暮らしてきた人々の国。アイスランド語には、「雪」を表す単語がとても多いそうです。 #4  濃厚な風雪「忘れられない風景はありますか?」 ハッピーアワーで2倍に増えたペールエールを啜っているあいだ、アイスランドを初めて訪れた観光客に話しかけられた。不意に投げかけられた質問を反芻して浮かんできたのは、地表に出たばかりの赫々たる溶岩の川でも、新月の夜空を横断して揺らめくオーロラでもない。アイスランドで目にして今でも脳裏に焼き付いているのは、ただの雪景色だ。 無風の空は牡丹雪で埋め尽くされ、山麓を歩く一行の周囲に見えるのは

    朱位昌併エッセイ連載「霜柱を踏みしめて アイスランド、土地と言葉と物語」#4|左右社
    kiku72
    kiku72 2023/02/17
  • 【無料公開】はじめに/済東鉄腸『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』より|左右社

    【無料公開】はじめに/済東鉄腸『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』より 日に住みながらルーマニア語で小説や詩を書いている日人の小説家。 この文章を見て「なかなか面白い〈設定〉だね!」と言ってくれる人はいるだろう。だけども「へえ、そんなことが実際にあるんだね!」と言ってくれる人、つまりこの文章を「現実」のものと思ってくれる人はいるだろうか。「いや、そもそもルーマニアってどこの国?」と言ってくる人の方が多いんじゃあないかと感じる。しかし、こんな問いかけをする俺自身がその「日に住みながらルーマニア語で小説や詩を書いている日人の小説家」なんだ。 まず少し、形式的な自己紹介をさせてほしい。 俺は一九九二年九月十日千葉県生まれ。今もここに住んでいて、三十年間千葉と東京からほとんど出たことがない。海外には一度たりとも行ったこと

    【無料公開】はじめに/済東鉄腸『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』より|左右社
    kiku72
    kiku72 2023/01/06
    “、虚弱体質で、クローン病って腸の難病も持っているからね。”
  • 苦労して行ったけどすぐ飽きた関東/町田康|左右社

    【第40話】「海道一の親分」として明治初期に名をはせた侠客、清水次郎長。その養子であった禅僧・天田愚庵による名作『東海遊侠伝』が、町田版痛快コメディ(ときどきBL)として、現代に蘇る!! 月一回更新。 ★既刊『男の愛 たびだちの詩』(第1話〜24話収録)、大好評発売中★ 弘化二年夏、次郞長たちは高萩の亀屋という宿屋に一泊した。翌朝、宿の女中が、 「二階のお客さん、おはようございます」 と言いながら部屋に入って来て驚いた。流石にもう着物を着ているだろうと思った四人の男が相変わらず裸でいたからである。驚いて敷居のところで固まっている女中を見て、慌ててなにか言いかけた虎三を次郞長は制し、そして、 「もうこうなったら隠したってしょうがない。ねぇやん、正直に話そう。俺たちは駿河の者で、高萩は万次郎さんの縁を頼みに、ここ高萩にやってきた。ところがその道中、ちょっとした事があって、面目ねぇ、こんな恰好に

    苦労して行ったけどすぐ飽きた関東/町田康|左右社
    kiku72
    kiku72 2023/01/06
  • 【五刷記念公開】だれにでも礼儀正しい錦鯉さんと飲み屋に行かなかった日/枡野浩一|左右社

    2022年9月23日、歌人・枡野浩一のデビュー25周年の日に刊行された『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』。発売三カ月弱にして五刷決定の大ヒットとなりました。重版を記念して、一部書店様で配布中の特別冊子「枡野浩一と私」より、枡野浩一さんのエッセイを転載いたします。(2022/12/17) ※文中の年齢などは執筆当時(2022年9月)のものです 芸人さんが短歌に挑戦するケースは目立つようになってきたが、歌人が芸人活動に挑戦するケースは目立つようになってきていない。 「短歌をひろめたい」という不純な動機で、短歌の出てくるコントや漫才に挑戦していた。 私が錦鯉さんの後輩だったのは、四十四歳からの、わずか二年間ほどだった。今現在の錦鯉渡辺さんが四十四歳だから、そのくらい「おじさん」の年齢になっていた私を、新人芸人として受け入れてくれた事務所SMAの懐の広さに

    【五刷記念公開】だれにでも礼儀正しい錦鯉さんと飲み屋に行かなかった日/枡野浩一|左右社
    kiku72
    kiku72 2022/12/15
  • #24 エピローグ|左右社

    リングにあがった人類学者、樫永真佐夫さんの連載です。「はじまり」と「つながり」をキーワードに、ベトナム〜ラオス回想紀行!連載は今回が最終回です。 ハノイから西へ、ホアンリエンソン山脈を越えタイチャン国境からラオスに入りルアンナムターまで800キロ、10日間の旅だった。道すがら、くにや民族の「はじまり」と「つながり」ゆかりの地を次々と訪ねた。ふりかえってみよう。 革命運動家たちの「つながり」の「学校」ホアロー収容所跡、共産主義国ベトナムの「はじまり」バーディン広場、ベトナム王朝1000年の「つながり」の象徴ハノイ皇城跡、黎朝の「はじまり」還剣伝説ゆかりのホアンキエム湖、1000年にわたる中国から独立したベトナムの「はじまり」ドゥオンラム村、「ベトナム4000年の歴史」の「はじまり」雄王ゆかりのギアリン山、黒タイのくにの「はじまり」の地ギアロ、黒タイとキン族の「つながり」の象徴カム・ハイン廟、

    #24 エピローグ|左右社
    kiku72
    kiku72 2022/12/14
  • 真魚八重子『心の壊し方日記』試し読み①|左右社

    2018年のクリスマスの夜、黒を飼いはじめた真魚のもとに10歳違いの兄の訃報が届いた。8年ぶりに疎遠だった実家に戻るとそこはゴミ屋敷となっていた──。 気鋭の映画批評家である真魚八重子の初めてのエッセイ『心の壊し方日記』を左右社より、11月上旬に刊行します。書は、兄の死とリボ払いの借金、母の認知症、夫の癌発症、自身のとセルフ・ネグレクト、SNSでの大炎上と自殺未遂……など自身の5年間の体験を苛烈に綴ったエッセイです。試し読みとして、2話分を無料公開いたします。 第1話 兄の死2018年のクリスマスの夜だった。 わたしはを飼い始めて、まだ10日ほどしか経っていなかった。保護のなかで、もう子ではない子や黒は貰い手が少ないらしい。特に黒はインスタ映えしないから、あまり人気がないそうだ。でも、近くの公民館で開かれていた譲渡会で気になったのは、もう1歳の成で黒だった。心を閉ざして

    真魚八重子『心の壊し方日記』試し読み①|左右社
    kiku72
    kiku72 2022/11/02
    “2話分を無料公開いたします。”