2000年代半ば以降、中国企業による先進国企業のM&Aが急増している。こういったM&Aの主な目的は、海外市場の拡大、および技術やノウハウなどの戦略的資産の獲得である。この論文は、中国企業の対外M&Aが企業業績に与える影響を、企業レベルのデータを利用して計量経済学的手法で定量的に推計した。その結果、対外M&Aによって、売上高、労働生産性、固定資産、無形資産(特許など知識資産を含む)は大幅に増加するが、従業員数や研究開発支出の対売上高比率は変化しないことが見出された。ただし、固定資産や無形資産の増加だけでは売上高の増加の約60%しか説明できず、残りの40%は、無形資産には計上されない技術・ノウハウや、海外市場での販売ネットワークなどを獲得したことに起因すると考えられる。したがって、中国企業は対外M&Aによって、戦略的資産を獲得して海外市場を拡大するという目的を、少なくとも平均的には達成している