従来、大陸へ渡った台湾人についての研究は抗日運動に従事した点に重きが置かれていた。すなわち、台湾出身だが大陸へ行き、国民党と共に台湾へ戻ってきたいわゆる「半山」が歴史的正統性の観点から高く評価された。他方で、対日協力者、すなわち「漢奸」の疑いがある者については、史料上の制約ばかりでなく、政治的タブーになっていたことから研究が遅れており、本格化したのは1987年に台湾で戒厳令が解除されて以降のことである。 中国大陸へ渡った台湾人の動機を類型化してみると、(1)進学(台湾人が台湾で高等教育を受けられる機会は乏しく、また日本へ留学すると費用がかかるため、大陸や「満洲国」の大学・専門学校へ進むという選択肢があった)、(2)求職、(3)商売(国籍上は「日本人」であった台湾人は、大陸で日本人と同様の特権を享受できた)、(4)日本統治への抵抗(上述の「半山」)、⑤戦時期の徴兵・徴用、といった要因が挙げら