観自在菩薩が深遠な般若波羅蜜多の行をしている時、(わが身は)五蘊なり、(しかもその五蘊は)皆空なりと照見した。 この冒頭の一節の最後の「一切の苦厄を度したもうた」(度一切苦厄)という文は、サンスクリット原典には、小本にも大本にもありません。おそらく漢訳者が心経最終段の「よく一切の苦を除く」(能除一切苦)を強調するために、ここに挿入したのでしょう。 「諸行無常」と並んで仏教が標榜する根本命題の一つが、「一切皆苦」です。この「苦」というのは、単に「楽しい」に対する「苦しい」という感覚のことではなく、この世は無常であるから「すべては思いのままにならない」ということを意味します。すなわち、何事も 不如意、という現実の認識が「苦」の原意です。 生まれること、老いること、病むこと、死ぬこと、この四つ(生老病死)の根本苦を四苦といいます。これに、愛するものと別れる苦(愛別離苦)、憎むものと会う苦(怨憎会