彼の羊水に10ヶ月ほどくるまりふやけにふやけた皮がすべて剥がれてつるつるの肌になった時、彼の首がすわって抱っこ紐の中にすっぽり収められても辺りをきょろきょろと見回せるようになった時、寝返りを覚えた時、楽しいゆえの笑顔を見せるようになった時、物を取り上げられたことに泣くようになった時、事あるごとに私は「成長したな、ようやくこの世界でやっていく決心がついたか」と彼に語りかけた。それを聞いた妻はいつも「でもまだお腹の中にいた時間の方が長いんだもんね」と言った。 そんな彼もいつの間にかあっという間にか、ようやく胎児としてのキャリアよりもこの世界を生きる一介の人間としてのキャリアの方が長い月齢に差し掛かっていた。まだ彼はこの世界の何もかもを知らないが、赤子が振り回して楽しい以外になんの価値もない何かを振り回しなんの意味もわからない奇声をあげて笑う彼はすでに世界を知ろうとする好奇心は獲得したように見え