新型コロナウイルスの感染拡大を受け、一躍国民の関心の的となった感染症数理モデル。一部メディアでその信頼性を疑問視する報道がなされるなど、日本での議論には混乱が見られた。感染症数理モデルの成り立ちや活用の意義、そして議論の混乱の背景について感染症などの数理モデルの開発・解析が専門の稲葉寿教授(東大大学院数理科学研究科)に語ってもらった。 (寄稿) エイズ危機で発展 今回の新型コロナウィルス感染症(COVID―19)の流行は、流行規模とその社会的影響からすると、1918年のスペイン・インフルエンザ、1980年代のエイズ以上になるであろう。一方で、流行に対抗する手段は非常に進化しているともいえる。スペイン・インフルエンザの場合は病原因子すら特定できなかったし、感染回避行動の数量的評価もできなかった。折から第一次世界大戦中であって、感染情報すらなかった。その70年後のエイズ危機となると、生命科学の