べし見(6月1日) 「べし見(べしみ)」は奇妙な能面だ。ぎゅっと口をつぐみ、「ひと言もしゃべるものか」といった表情をしている。能舞台で鬼神や天狗(てんぐ)を舞うのに用いる。口を「へ」の字に結んで黙り込む「へしむ」に由来するそうだ▼民俗学者折口信夫(おりくちしのぶ)は、べし見の顔に太古の精霊の「抵抗」を見いだした。山川草木ことごとく自分の言葉を発していた国に、強力な言葉を持つ新しい神がやって来た。精霊たちは服従を拒んで緘黙(かんもく)したという(「日本文学における一つの象徴」)▼最高裁は、卒業式で教職員に日の丸に向かって起立し、君が代を斉唱するよう指示した校長の職務命令を合憲とした▼「日の丸」や「君が代」への思いは人それぞれだろう。起立・斉唱する先生にしても「国旗・国歌」を深く敬愛する人だけではなく、「異端視されたくない」「面倒は避けたい」と歌うふりだけする人もいるはずだ▼式場に思想・信条に