今回は、長野県に伝わる犬にまつわる民話一編をご紹介いたします。時代は600年あまり前、正和という元号の頃のお話です。 今回は犬が「恩返し」に化け物とたたかうという民話。いつの時代にも、こうした一宿一飯の恩義を重んじる動物が主役の寓話はありますが、今回はちょっとシュールな結末になっています。 むかしむかし、上伊那の宮田村にひとりの旅人がやってきました。 旅人はどこかそわそわした様子で、あたりを見まわしていましたが、そのうち一軒の茶店に目をとめ、中に向かって声をかけました。 「ごめん。このあたりに早太郎という人がいると聞いてきたのだが、ご存じなかろうか?」 茶店の婆さんは、お茶を出しながら言いました。 「早太郎? さて、聞かないねえ」 「そうか、知らぬか……」 旅人はため息をつきながら、受け取ったお茶をすすり、目の前にそびえる駒ヶ岳に目をやりました。その様子は、切羽詰まった感じ