○原武史『昭和天皇』(岩波新書) 岩波書店 2008.1 待望の原武史さんによる昭和天皇論! そう思ったのは私だけではあるまい。同氏の『大正天皇』(朝日選書,2000)は、「頭が弱い」「病弱」といわれた大正天皇の人間味にあふれる姿を、巡行中のエピソードや御製の漢詩を使って描き出した、すがすがしい好著だった。 本書は1986(昭和61)年11月23日から始まる。昭和天皇が執り行った最後の新嘗祭である。翌87年9月から長い闘病生活に入り、89年1月に死去。本書の記述によって、私は初めて、宮中祭祀における天皇の役割の過酷さを知った。時には夕方から未明まで、暖房設備もない暗闇の中に正座して、神に奉仕しなければならない。高齢の天皇に配慮して、座椅子を用いるとか、儀式の一部を省略するなどの対処は取られていたそうだが、「御肉体においても日本人中一番御苦労遊ばされるは、天皇陛下にあらせられる」という掌典職