キリスト教は一神教だと言われる。しかし唯一の神と呼ばれる存在が天上に君臨しているだけでは、人々の日々の祈りとの間に距離が開きすぎる。父と子と聖霊という三位一体論が確立して神とキリストの働きが聖霊となって人間に宿るとされると、続いて『神とキリストの精神に則ってその教えに殉じた人』(はじめにiv)への崇敬が高まった。人々は日々の悩みや贖罪を、聖人を通じて神にとりなしてもらおうとするようになる。これが聖者(聖人)信仰である。 聖人とされた人たちは何らかの人々の悩みや苦しみ、例えば病気や災害、貧困などを救う誓いを立てて殉教したものも少なくなかったから、その聖人たちが立てた誓いに基づいた守護聖人として信仰を集めることになった。また、その聖人にまつわるエピソードに由来して、例えば岩を割ったので鉱山の守護聖人となったり、動物の言葉を介したので牧畜の守護聖人となるなど、職業や権能、ゆかりのある地域などの守