現在の政治的状況が、なんらかの形で過去を引きずっている限り、歴史的な経緯について、その知識を蓄積することで、現在、進行している事態の理解が深まることは間違いない。 「一億総懺悔」と、敗戦の受け止め方を揶揄された時代に生まれた私は、子供の頃から漢文を読まされ、三味線の音が聞こえる家庭環境に反発してか、物心つく頃には西欧に関する書物ばかり、それも翻訳本という中途半端な形で読みふけっていた。 30代の半ばになって、ロンドンに行くことが多くなり、東欧や中欧の友人ができた頃から、ハプスブルク家についての書物を収集してきた。多くの民族と異なる宗教が入り乱れ、諍いが絶えない中欧において、数百年にわたって統治の版図を維持し続けた不思議な王家である。本書は、その末裔である「赤い大公」ヴィルヘルムの破天荒な生涯を描くことで、20世紀の欧州の歴史を別な視点から洞察しようと試みている。 1895年に生まれたヴィル
![『赤い大公 ハプスブルク家と東欧の20世紀』ティモシー・スナイダー著](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/dbd25ab993a7a479e6dc6afd93cb9aaf1aac1f5f/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fpresident.ismcdn.jp%2Fmwimgs%2Fe%2F9%2F1200wm%2Fimg_e92cc1f4722b080a995f68631503dbd415362.jpg)