中村 雄祐『生きるための読み書き――発展途上国のリテラシー問題』(みすず書房、2009年) 本書は、第Ⅰ部「読み書きと社会の発展」で、読み書きの重要性と、読み書きを従来分析してきたリテラシー・アプローチの射程の狭さを描き出すところから始まる。となれば、第Ⅱ部「文書と人間の歴史」は、読み書きに関わる諸事をより広いまな板に載せる作業になる。いわば、仕切り直しをすることによって読み書きを根本的に捉えなおすことになる。第Ⅲ部は、そうした広いまな板の上でボリビアの編み物教室を事例とした「途上国の読み書き問題」を考えている。実証の第Ⅲ部に対して、本稿では理論の第Ⅱ部を取り上げる。 第Ⅱ部にはいくつか鍵となる言葉/文/表現が出てくる。例えば、『「良い場所」に生まれる』というハーバート・サイモンの名著からの引用であり、『「個人が上手に文書を使いながら暮らしていくこと」と「社会が文書を介してうまくまわってい