はじめに:人生の充実に向けて あるひとが、人生が充実していないというのは妙な表現だと述べていた。触発される指摘だった。たしかにそれは妙な表現だ。というのも、――そのひとの文言を借りる――「人生が人生である限り、人生は人生において充実してる」からだ(Taku(@iliya_sora) 2020年5月7日のツイート。以下、引用中の太字強調は江永による)。これは謎かけではない。むしろ、辞書的な意味に即していると言えよう。(ここでの話は引用箇所の前後の文脈に忠実なものではない。)〈人生〉とは、ひとが生きているということであり、〈充実〉とは、なかみがつまっているということだ。そして、ひとは生きている限り死んでいないはずだ。とすればひとの生は、死ぬまでのあいだ、人生でいっぱいになっているはずだ。――これが不可解に思えるとすれば、そこで何か異なる判断が働いているからだ。たぶん、人生の充実という尺度で、あ