「リアル」な芝居を解明する 『演劇入門』というのは、いま考えても背筋が寒くなるほど不遜な書名であった。 私が調べたところでは、同じ書名の本は、過去に3冊出ていて、いずれも新劇界の重鎮千田是也氏と岸田國士氏と福田恆存氏の手によるものである。 私の『演劇入門』の方は、当初、自分の心づもりでは、『リアルのメカニズム』という題名になるはずで、実際、そのような目論見で原稿を書き進めた。内容の過半は、自分の劇団の中で開発していた、集団で戯曲創作を行うためのプログラムをまとめたものである。 ところが、初稿が上がった段階で編集者から、書名を『演劇入門』としたいという申し入れがあった。 当時35歳の私は、もちろん戸惑い、できればそれは避けたいと答えた。『演劇入門』という書名は、あまりに大仰で、いまどきの表現を使うなら「上から目線」に思えたし、なによりこの本は、演劇全般の入門書のつもりで書いたわけではなかった