宇多田ヒカルという歌手は、極めて自照性の高いアーティストである、と思う。 それは日本の歌謡界でトップクラスといっていいかもしれない。 彼女の歌を聞いていていつも感じるのは、結局この人自分のためにしか歌っていないな、ということだ。 これは彼女がエンターテインメントに徹しきれていない、素人芸だ、という意味ではない。 それは、彼女の歌う動機は常に内面にむかっている、ということであり、例えていうなら、彼女の創作姿勢は純文学作家のそれに近い営為である、と思うのだ。 確かに音楽における自作自演という表現スタイルというのは多分に「作家的」である。 が、宇多田ヒカルという歌手を見るとき、それはとても顕著にあらわれている、と思う。 彼女が今の時代を象徴する歌手のひとりであるということに異論を挟む者はいないだろう。 もちろん、彼女以前に自作自演スタイルでもって時代のハンドルを握った歌手というのはもちろんいる。