高濱 賛 在米ジャーナリスト 米政治・経済・社会情勢を日本に発信している。1969年、米カリフォルニア大学卒業、読売新聞社に入社。米特派員、総理官邸・外務省担当キャップ、デスクを経て、調査研究本部主任研究員。98年からUCバークレー校上級研究員。同年から現職。 この著者の記事を見る
このところ、米国の宇宙ベンチャーの動きがものすごく活発だ。11月23日、ネット流通大手のアマゾンのジェフ・ べゾスCEOが設立した宇宙ベンチャーのブルー・オリジンは、テキサス州の私有地で、同社の開発した有人弾道ロケット「ニュー・シェパード」の2度目の無人打ち上げを実施し、ロケット部分の垂直着陸を成功させた。イーロン・マスク率いるスペースXも負けじと12月22日、「ファルコン9R」ロケットの打ち上げで、使い終えた第1段を打ち上げ地のケープカナヴェラルに戻して垂直着陸させることに成功した。 ニュー・シェパードの有人カプセルは、慣例的に「ここから宇宙」とされる高度100kmを越えて100.5kmに到達し、その後パラシュートを開いて無事に着地。さらに、ブルー・シェパードのロケット部分は切り離し後に、姿勢を制御しつつ降下し、最後に着陸脚を展開してロケットエンジンを再起動して逆噴射を行い、着陸に成功し
政府・与党は環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意を受け、農業分野の対策を決定した。牛肉や豚肉、コメなど海外からの輸入増が見込まれる品目への保護策を打ち出す一方、農業の体質強化策はもう少し時間をかけて議論することにした。結論を出すのは1年先。だがそのカゲで、今後の農政のあり方をめぐる攻防はすでに始まっている。口火を切ったのは財務省だ。 財務省の農業分析資料は説得力十分 財務省がつくった資料を見て、正直驚いた。農林水産省のホームページのどこを見ても、日本の農業が抱える課題をこれほどわかりやすく整理した資料を見つけるのは難しい。財務省の資料だから根底にはもちろん、歳出の拡大に歯止めをかけたいという思惑はある。だがそれを割り引いたとしても、11月4日に財政制度等審議会の分科会に提出した資料の説得力は少しも落ちない。 とくに力を入れているのは、農業が直面する問題を象徴するコメだ。例えば、農水省の
参加すれば日本の農業が壊滅する――。全国の農家がそう心配した環太平洋経済連携協定(TPP)が大筋合意したことを受け、国内の農業対策の論議が急ピッチで進んでいる。与党の農林関係議員はどんな議論をしているのか。今回はその様子をお伝えしたい。 11月5日、東京・永田町にある自民党本部の9階会議室はものものしい雰囲気につつまれていた。農林関係議員や官僚、記者団を見渡すひな壇の正面にすわったのは、農林部会長になったばかりの小泉進次郎氏だ。その横では、元農相の西川公也農林水産戦略調査会長が胸をそらし、厳しい表情で会場を見まわした。 小泉×TPPにシャッター音、数多 「それでは2時になりましたので、合同会議を開催します」。小泉氏がそうあいさつすると、カメラのシャッター音がいっせいに鳴り響いた。なにしろ「小泉×TPP」のコラボだ、メディアの注目を集めないわけはない。室内はじわりと汗ばむような熱気で、何人か
これまで一貫して、人と機械が各々得意な能力を組み合わせて豊かな生産、生活が実現するという楽観論を展開してまいりました。膨大なデータに基づくランキング、判断や、超高速に力ずくですべての可能性を計算できる能力では、機械はほぼヒトを凌駕してしまうことでしょう。しかし、前回記事で触れたフレーム問題や、将棋で王手をかけられたら回避すべしといった基本原理の理解不足の類により、人がまだまだ優位な点が向こう数十年は残ると思います。 将来、量子コンピュータなどの仕組み(アーキテクチャ)が飛躍的に進化するまでは、人間が未知の事態等に世界知識・教養を駆使して対応し、「適当に」計算を打ち切って妥当な判断を下す能力によって、高速に大量のデータ、パターンと照合するという力技では解決でき難い問題を解く役割が続く、ということであります。 最適化の計算や、チェスや将棋の如き知的、論理的判断、シミュレーションのような課題です
日本の食料問題を考えるための指標として、新たに「食料自給力」が注目を集めている。いざというときに、田んぼや畑で食料をどれだけつくれるのかを示す指標だ。だが農地の広さだけ測っても、食料の供給力が分かるわけではない。日本の農地の地力はどうなっているのか。農業・食品産業技術総合研究機構の中央農業総合研究センターで土壌の研究をしている新良力也上席研究員に話を聞いた。 大豆をつくる水田は肥沃度が低い 日本の農地の地力はどうなっていますか。 「我々が調べているのは、水田の地力です。本州以南の地域は水田が大部分を占めている。その地力が広く落ちている可能性があります。とくに注目しているのが、生産調整(減反)の結果、水田で稲以外の作物をつくっている農地の地力です」 「例えば、富山県では、減反が始まったころ、転作作物として水田で大豆をつくると、10アール当たりで250キロぐらいとれていた。最初は一生懸命つくっ
内助の功ハンティング 青色LEDの開発に成功した日本の科学者3名がノーベル物理学賞を受賞すると、テレビ局各社はカメラを背負って「内助の功ハンティング」に出かけた。皆、支えてきた妻が好きである。実際に個々の夫婦がどうであろうと勿論構わないが、テレビが遮二無二「支える妻」を求めてしまう働きかけって、長年正しいものとして蓄積してきた。それって結果的に、女性が活躍しにくい社会とも少なからずリンクしてくる。 その点、受賞者の1人である名古屋大学・天野浩教授の奥様の聡明さが光った。内助の功ハンターが求める奥様像に決して押し切られなかった。宣戦布告のように「内助の功なんてしていませんよ」とキッパリ。スタジオのキャスターは「そんなぁ、それは謙遜ですよね?」と問うと、「私は何もしておりません。夫や研究所の皆さんの努力の賜物です」と表情を変えずに再びキャスターへ差し戻した。 「夫のおかげでロシアに来られた」と
和田 智(わだ・さとし) カー&プロダクトデザイナー、SWdesign代表取締役 1961年東京生まれ。武蔵野美術大学卒。84年日産自動車入社。シニアデザイナーとして、初代セフィーロ(88年)、初代プレセア (89年)、セフィーロワゴン(96年)などの量販車のデザインを担当。89~91年、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート留学。日産勤務時代最後の作品として電気自動車ハイパーミニをデザイン。98年、アウディAG/アウディ・デザインへ移籍。シニアデザイナー兼クリエーティブマネジャーとして、A6、Q7、A5、A1、A7などの主力車種を担当。アウディのシンボルとも言えるシングルフレームグリルをデザインし、その後「世界でもっとも美しいクーペ」と評されるA5を担当、アウディブランド世界躍進に大きな貢献を果たす。2009年アウディから独立し、自身のデザインスタジオ「SWdesign 」を設立。独立後は
5月12日号の特集「背水の農 TPPショック、5大改革で乗り越えろ」ではオランダの植物工場を現地取材し、小国ながらも世界2位を誇る農産物の輸出力について紹介した。大規模化、生産性向上、コストダウンの3つを絶えず継続しており、3月下旬には安倍晋三首相が視察するなど日本政府関係者もオランダ詣でを繰り返している。 TPP(環太平洋経済連携協定)交渉でのライバルにあたる米国や豪州と違い、土地の広さが限られる日本でも効率的なオランダ型の施設園芸を今後展開したいとの思いがある。そうした動きを先取りし、日経ビジネスオンラインの連載ではオランダ植物工場の強さの秘訣に迫りたい。 トマトや花は世界トップの輸出シェア オランダの人口は1679万人、国土面積も415万ヘクタールにとどまる。いずれの規模も日本の1割程度という欧州の小国だが、農産物の輸出額は年間893億ドルと米国に次いで2位の座を保つ。農業はGDP(
(前回から読む) JR北海道労組は、相次ぐ事故、不祥事に揺れるJR北海道の最大労組だ。だが極左暴力集団「革マル派」との関係が疑われている。排他性が強く、3つある少数派組合と社内で対立、安全運行に支障が出かねないとの批判がつきまとう。「最大派閥」のドンが記者団の疑問に答えた(2013年12月20日の囲み取材を基に構成した)。 所属する組合員に対して、ほかの組合とも職場で仲良くしようと伝える意思はないのか(筆者注:JR北海道労組は所属組合の違う社員との会話、会食などの交流を禁じている)。 鎌田:ないですね。今はないです。 どうしてか。 鎌田:何で言わなくちゃいけないんですか、仲良くしなさいって。子供じゃないんですから。 別の組合の結婚式もNG! 所属組合が違う社員の結婚式への出席も禁じている。 鎌田:それが安全を阻害しているんじゃないか、ということを聞きたいのか。 例えば、営業中の駅にJR北海
「そんなイオンばっか作って、どうするんよなぁ」。 岡山県玉野市に住む40代の主婦、大林美紀子さん(仮名)はそう言って首をかしげる。巨大流通のイオングループが今年秋、JR岡山駅の駅前に大型のイオンモールを開業すると聞いた時の率直な感想だ。 玉野市は岡山市と隣接し、クルマでは30分ほどの距離。新しい大型商業施設の開業は、消費者の立場からすれば楽しみに映るのかと思いきや、大林さんにしてみるとそうでもないようだ。 岡山市と同じく隣接する倉敷市には、すでに「イオンモール倉敷」がある。クルマでの所要時間は同程度だが、岡山駅前に比べれば、幹線道路沿いの倉敷店は駐車場に停めやすい利点がある。さらに大林さんは、夫の実家がある岡山県津山市にも「イオンモール津山」があり、日常の買い物によく訪れる。「わざわざ岡山駅まで買い物に行くんじゃけぇ、そんな時にいつも使うイオンに行きたいとは思わん」(大林さん)。 同じこと
「奥さん。普通のキノコと立派なキノコ、味がいいのはどっち」 食品スーパーの店頭で夕飯の食材を物色する主婦。すると背後から、エリンギのイヤリングを付け、キノコ柄のシャツを身にまとった“キノコの精”の男性が、こう耳元でささやく。 「どっちも一緒よ」 恥じらいながら答える主婦に、若い男性はあるものを握らせて訴える。「こっちだろう」。恍惚の表情を浮かべながら主婦が手元を見てみると、「立派なキノコ」のブナシメジが――。 最近では珍しい扇情的な描写で話題を呼んだこのテレビCMが、先日放映中止となった。「下品」「子供に見せられない」「卑猥すぎる」などの苦情が一定数寄せられたためだ。 放送中止が決まった直後、ネット上では残念がる声も噴出した。「キノコがあんなに印象的に残ったCMはほかにない」「ユーモアの分からない国だ」といった声や、「嫁がみて爆笑していた」「センスありすぎ」などと評価する声が相次いだ。 こ
答えはスウェーデンで見つかった 何やら深刻そうなタイトルですが、ある記事を見て、そんなことが頭をよぎりました。 「欧米には、なぜ寝たきり老人がいないのか」。 ご覧になった方もいらっしゃるかとは思いますが、少々抜粋をしてご紹介しておきます。 「答えはスウェーデンで見つかりました。今から5年前になりますが、認知症を専門にしている家内に引き連れられて、認知症専門医のアニカ・タクマン先生にストックホルム近郊の病院や老人介護施設を見学させていただきました。予想通り、寝たきり老人は1人もいませんでした。胃ろうの患者もいませんでした。 その理由は、高齢あるいは、がんなどで終末期を迎えたら、口から食べられなくなるのは当たり前で、胃ろうや点滴などの人工栄養で延命を図ることは非倫理的であると、国民みんなが認識しているからでした。逆に、そんなことをするのは老人虐待という考え方さえあるそうです。 ですから日本のよ
ネイティブに何か言われると話せなくなってしまう原因の1つは、相手の英語がストレートすぎるからです。遠回しに丁重に話しかける日本語と違う、英語の遠慮のなさに戸惑ってしまうのです。年下や部下がネイティブの場合は「失礼な言い方をするやつだ」とカチンとくることもあります。 英語は率直な言い方をする言葉です。そこが分かれば、ネイティブに余裕をもって対応できるようになります。 英語の社内公用語化は失敗する 英語が社内公用語として定着して、皆が英語で議論するようになると、「やっぱり英語はやめよう」という声が広まるのではないかと予想しています。「意思が伝わらないから」ではありません。「社内の空気が悪くなるから」が理由です。 海外では日本人同士でも英語で話さなくてはならない時があります。外国人が1人でも入れば議論はすべて英語だからです。ぼくがアラビアで部長をしていた時、部下の日本人と議論になる時がありました
太田さんの著作『森林飽和』を読ませていただきました。「飽和」というほど、日本には森林があふれているのでしょうか。 太田:はい。幹の体積の総和を森林の蓄積といいますが、日本は過去50年間ぐらい増え続け、3倍ぐらいになっています。人工林は4~5倍に増えていて、自然林もどんどん成長しています。『森林・林業白書』に毎年、グラフとともに出ているのに、誰も触れてこなかった。不思議です。 経済成長で森林以外の土地利用はどんどん変化しています。都市に住んでいると、宅地や工場が増え、緑がどんどん減っている。一方、山に行っても、木は徐々に大きくなっていくから、あまり増えているとは思わない。それで、森林は減っている、だから植えなければいけないという先入観が出来てしまっているのでしょう。 しかし、実は山の斜面で木はどんどん増えている。日本の森林というのは非常に豊かです。それで「森林飽和」というタイトルをつけて、「
ワールド・ベースボール・クラシック(以下WBCと略称)の開幕が間近に迫っている。 予定では3月2日に予選ラウンド初戦の対中国戦が開催される運びだ。 事前の壮行試合は盛り上がらない……はずなのだが、世間の評判は上々で、オーストラリア代表チームとの2試合は、いずれも15パーセントを超える好視聴率を記録している。なるほど、われわれは野球好きな国民なのだな。 私自身は、この10年ほど日本のプロ野球とは距離を置いてきたのだが、出来心で観戦してみると、面白い。子供の頃から大好きだったスポーツはやはりカラダに染みついているのだろう。 というよりも、 「野球は滅多に見ません」 という自己申告が、実は、半ば以上、事実に反していたわけだ。 私は、2004年に起こったオリックスと近鉄の合併劇に、いまだに腹を立てている。その後に勃発した一連の球界再編騒ぎの折りの日本野球機構の対応ぶりにも、強烈な不信感を抱いている
先週の小田嶋隆さんの連載「ア・ピース・オブ・警句(あの動画についてやはり触れざるを得ない)」は、非常に多くの読者の方に読んでいただいた。その中でオダジマ氏は女子柔道のオリンピック選手への、コーチによる体罰に論を進め、 「どうして五輪代表に選出されるような一流のアスリートを暴力で従わせねばならないのだろうか?」 と問いかけた。思わず頷いた方もいるのではないだろうか。 そんな折り、メルマガサイト「夜間飛行」の井之上達矢編集長から、「こちらで連載中の甲野善紀さんが、ぜひ広く言いたいことがあるので、日経ビジネスオンラインで取材してもらえないか」と打診を受けた。甲野善紀さんは、伝統的な武道の世界からはアウトサイダー視されているが、その視点のユニークさと指導実績から、武術、スポーツの世界のみならずロボット工学などの専門家に高く評価され、柔道界の選手たちにも支持者が多い武術家だ。 武術の世界と、ビジネス
健康・美容にいい油として注目され、欧米だけでなく日本の食卓にも浸透しているオリーブオイル。ところが今、このオリーブオイルの品質が危機に瀕している。 オリーブオイルを使ったことのある人なら、「エキストラバージン・オリーブオイル」という名前を聞いたことがあるだろう。「エキストラバージン」とは、そのオイルがオリーブオイルの最高グレードであることを表す言葉で、「エキストラバージン」であるための基準は、主要な生産国が加盟する国際オリーブ協会(IOC)によって決められている。 その基準を簡単に言うと、オリーブの実のみを原料に使い、機械的作業のみによってつくられ、酸化度(酸化しているほど質が低い)などの化学基準を満たし、風味に悪臭などの欠陥が一つもないこと。機械的作業というのは、つぶす、搾るなど原料に物理的な変化を加えることで、精製したもの(例えば加熱・化学変化を伴う処理)は「エキストラバージン」とは認
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