読み返す度に、涙を押さえられない物語がある。 『戦艦大和の最期』は昭和文学史上の傑作の一つである。 『平家物語』と共に我が国の叙事文学として受け継がれるであろう本書について、ここで改めて取り上げるには及ばないかもしれない。 しかし本書の知名度は若い方々にはさして高くないと推察される。軍事や歴史に興味を持つ人だけでなく、興味を持たない人々にこそ読んで欲しい作品として、本書を紹介したい。 太平洋戦争も最終段階に突入した昭和二十年四月。日本海軍の建造した世界最大の戦艦『大和』は、沖縄に上陸した米軍撃滅の命令を受けて出撃した。もとより帰還を意図しない「水上特攻」であったが、米軍が制空権を握る状況下、この作戦はほとんど成算の無い自滅行為でしかなかった。 『戦艦大和の最期』はこの、祖国の古名を冠した巨艦に乗り込んだ三千人の男たちが、敗北と知りつつ義務に従い、圧倒的な敵と戦って死んでいった壮烈な記