その昔、重い奇形をもつ人々は「怪物」とみなされた。いま、奇形は遺伝子の働きを知るうえで、貴重な手がかりとなっている。その間には体づくりの謎をめぐる、数百年にわたる混乱と探究の歴史があった。ヒトの変異の博物学・文化史・科学史は、不可分に縒り合わされている。 「私たちはみなミュータントなのだ。ただその程度が、人によって違うだけなのだ」。科学者は違いの原因となる遺伝子を探し、その文法を見出す。それが「私たちはなぜこのような形をしているのか」という問いへの答えにつながる。重い奇形の原因が、約30億の塩基対のうちのたった一つに起きた変異である場合もある。体づくりの精妙な仕組みに驚嘆し、多様性の謎が解けると同時に、違いの源がいかに私たちの直感に反して微かであるかを発見する。発生生物学者たちを虜にするそのスペクタクルを、本書は垣間見せてくれる。 人体の遺伝的多様性の原因を科学的に解明することは、不当な差