太陽を背にして,山の上や飛行機から雲を見下ろすと,運がよければ,雲に映った影の周りに多色の輝くリングを見ることができる。「ブロッケン現象」だ。この輝くリングは虹と同様,雲を構成している小さな水滴が作り出している。ただ,その物理学はもっと複雑で,数百年もの間,科学者を悩ませてきた。それが近年,光輪のエネルギーの大半は「トンネリング」によってもたらされることがわかった。水滴の近くを通り過ぎる光が,そのエネルギーを水滴に受け渡す量子論的な現象だ。ブロッケン現象の光輪の研究を通じて得られた理解は,雲が気候変動にどう影響するかを予測するモデルを改善するのに生かされている。 著者H. Moysés Nussenzveig リオデジャネイロ連邦大学の物理学の名誉教授で,米国光学会によるマックス・ボルン賞を受賞している。様々な光学現象について斬新な理論研究法を開発してきた。現在は細胞生物物理学の研究を指揮