米国では,認知機能改善薬に大きな関心が寄せられている。飲むだけで認識力や記憶力などの認知機能を高める薬だ。こうした薬はスマートドラッグや向知性薬,あるいは「脳のバイアグラ」などという名前で呼ばれることもある。大学生や企業のエグゼクティブの間ではブームになっており,薬のおかげで集中力が高まったという実感を持つ人も少なくない。しかし実際のところ,認知機能を改善するとして承認された薬剤は1つもない。 2008年にNature誌がオンラインで実施した薬剤使用経験に関するアンケートによると,60カ国,1427人の回答者の20%が,メチルフェニデート,モダフィニル,ベータ遮断薬を認知機能を高める薬として使用したことがあると答えた。メチルフェニデートはナルコレプシーのような睡眠障害や注意欠陥多動症(ADHD)の治療薬だが,集中力を高める目的で服用する人が多く,同じくナルコレプシーの治療薬モダフィニルは過