「今、世の中は安定志向ですが、大きな仕事を成し遂げようと思ったら、人がやっていないことに挑戦する以外に道はないと思いますね」 柔らかな物腰で淡々と語る。しかし、その穏やかな表情の裏側には熱いチャレンジ精神が潜んでいた。 2012年11月10日に開催された、科学や技術、文化の発展に大きな貢献を果たした人物に授与される「第28回京都賞」(稲盛財団)の授賞式。その大舞台に大隅は立っていた。飢餓状態に置かれた細胞が飢餓を乗り切るために自らの細胞の一部を分解し、栄養源とする「オートファジー(自食作用)」機能を世界で初めて肉眼で確認し、さらにそのメカニズムや関連する遺伝子を次々と明らかにしたことがその受賞理由だ。 当初、大隅が研究対象としていたのは酵母だった。しかしその後、この現象は酵母に限らず植物から人類に至るまでありとあらゆる動植物に共通する、細胞の最も基本的な機能であることが、自らの手によって判