製造業で考えてみよう。大きな工場を抱える事業部があるとしよう。親会社の要求する仕様の製品を作るべく、研究開発を重ね、機械などの設備投資、人材の確保などを進めてきた。ところが、実際の製造が始まる直前に、「お前の工場には任せておくとうまく行かない気がするから、この製品は別の工場で製造することにする」と通告を受けた。相手は親会社なので、これまでの投資や今後の期待収益が吹き飛んでしまうことに対して、文句を言っても、「本社の決定なので従ってもらう」と言われて抵抗できない。 来年の東京五輪のマラソンと競歩競技を当初予定の東京ではなく札幌で行うことをいきなり決めた国際オリンピック委員会(IOC)が本社、それを受け入れざるを得なかった東京都が不運な工場の立場だ。現実のビジネスでも起きそうなケースだ。 取引先が相手なら、契約書を使って交渉の余地があったろうが、今回の東京都のIOCに対する立場はもっと弱かった