「三忠食堂本店」の厨房(ちゅうぼう)で黒沼三千男さんが津軽そばを作る。煮置きのそばは3日は持つという そばは「三たて」がうまい、といわれる。挽(ひ)きたて、打ちたて、ゆでたてだ。“常識”のように思っていたが、生半可だった。あっさり覆されたのである。 青森県西部の津軽地方。この地では、そばは「煮置き」が一般的という。ゆでてから半日以上も寝かせる。そんなそばがうまいのか。最初は半信半疑だった。 津軽藩の城下町、弘前を訪れた。JR弘前駅から15分ほど。肌を刺す寒さの中を歩き、一軒家の食堂に着いた。「三忠食堂本店」。ごく普通の大衆食堂だが、百年の歴史がある。4代目店主の黒沼三千男さん(59)が、「津軽そば」を出してくれた。 小ぶりの丼に入ったかけそばを、すすった。腰がないなんてもんじゃない。驚くほど柔らかい。はしでつまむと切れるほどだ。そして、何ともいえない大豆の香りがふわり。実に優しい味だった。