今回、『artscape』で全6回の連載を担当することになった。編集部からのオーダーは、近年のウェブサービスの最新動向のなかから、特にデジタル・アーカイブ(データベース)という点で着目すべき事象を取り上げ、考察するというものである。 はじめに:「〈歴史〉の未来」とは 誰もが知るように、いまなおデジタル・アーカイブの進展にはめざましいものがある。昨今では、GoogleやAmazonといった巨大企業が「クラウド・コンピューティング」と呼ばれる潮流を牽引し、あらゆる情報やデータは、一企業の運営する巨大なデータセンター──IT評論家である梅田望夫のよく知られた言葉を借りれば「あちら側」──に収められつつある。こうした事態を端的に象徴しているのが、さきごろ出版界を中心に物議を醸した「Google ブック検索」であろう。人類の「知のアーカイブ」の代表格であった図書館は、いまや国家ではなくGoogleの