白壁に手をつきながら鉄製のタラップを登ってゆく。四〇代になりたてのころ仕事で腰を痛めてから騙し騙しやってきたが、季節の変わり目、特に今日のように晩秋で急激に気温が下がった日は、古傷がぶり返す。しくしく痛むのである。 白壁についた手を離すと手形が残っていた。掌を見ると、灰色に汚れていた。「クソッ」と内心悪態をついて、舌打ちをした。アパートのコンクリートの外通路を歩く。手摺りには黄色いテープが張られていた。通路から鉄道が見えた。ここは撮り鉄にとって、名所らしい。 現場は四つ並ぶ部屋の奥から二番目だった。ドアは開け放たれ、青い作業着の人間が頻繁に出入りしている。鑑識である。科捜研も出張ってきているだろう。 痛む腰を叩きながら部屋に入る。すれ違う鑑識が挨拶をしてくる。それに右手を挙げて応える。 「ウッくせえな」 手の甲を鼻に当てる。夏場のホームレスのような、強烈な生き物の内臓のような、そんな臭いが
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