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ブックマーク / note.com/masarin (10)

  • 電気仕掛けのペットロス|まささん

    店は「雪の下」といった。大通りと土産物屋が立ち並ぶ通りに挟まれた場所に立っていた。 ふたつの通りは観光客が一年中あふれている。並んでいるべ物屋も、古い店はそれなりの価格設定になっている。だが、新しい店や通りから奥に引っ込んだ店は、それなりにリーズナブルな価格になっている。店によっては、リーズナブルな店の倍の金額を取る店もある。 舞が初めてこの店に来たころ、彼女はこのあたりで働きたくて、働き口を探していた。母親のいる老人ホームがこのあたりにあるからだ。舞の母親は、クセのある母親らしく、最後死ぬときはこのあたりが良いと言い張って、勝手に老人ホームに入所した。もちろん、費用は舞が持った。急に言い出すので、夫が死ぬときに残した生命保険は使い果たした。日の慣習的に、老人ホームに入ったからといって、全く放っておくわけにはいかない。我ながらため息が増えたと思うのだが、断ち切れぬものは断ち切れぬものと

    電気仕掛けのペットロス|まささん
    masarin-m
    masarin-m 2018/03/01
    新作小説。本当は先月分として出したかったけど、一日遅刻。外国人が多く訪れる喫茶店。未來のペットロスのお話、
  • 優しい雨|まささん

    短編小説の集い自主課題「故郷」 二〇四X年、一月。 息子の担任から連絡が入った。 「明日、息子さんのことについて相談したいことがあるので、是非御来校ください」という趣旨であった。昔のように電話による直接会話ではないので、その場で概要を聞くわけにも行かず、とりあえずイエスの連絡だけをした。 そこから明日学校に行く時間を捻出するために予定を組み直した。幸い、家で行う事務作業だったので、それほど苦労はなかった。 連絡があった日の仕事が終わったのは七時過ぎだった。没頭しすぎていたのか、息子がとっくに帰っていたというのは気づかなかった。 息子に、「先生から連絡があった」ことを伝え、どんな用件だか分かるか、と聞いてみた。息子は「知らなーい」と言っていたが、様子からしてなにやら厄介ごとを隠しているように見えた。とぼけているような微妙な表情の変化があった。十数年育ててきた親なのだから、そんなことに気づかな

    優しい雨|まささん
    masarin-m
    masarin-m 2018/02/01
    自分の息子に自分の陰を見る母親の話[小説][短編小説][親子][家族][静岡][SF][海]
  • クリスマスツリー|まささん

    ――交差点の先車両行き止まり。 そう書かれた立て看板が視線の端を後ろに流れていく。いつものジョギングコースのアスファルトはまだ濡れている。雨は朝には止んだはずなのに。信号の青い光がアスファルトを鈍く照らしている。 交差点の向かいには純喫茶店、道を挟んで向かいに個人医院、並んで奥には民家やアパートなどが続く。小さな住宅街のなかを駆け抜けると、工事現場に突き当たる。工事は広大な地域を抜ける環状線を造るものだ。小さな住宅街は年末のせいか、いつもよりも閑散としている。今年の師走はここ数年で一番寒い。 工事現場は人の身長より高い半透明のプラスチック製の防音壁で覆われている。防音壁の上部に白い蛍光灯が並んでいる。防音壁の向こうの工事の進捗状況に応じて、複雑に防音壁の位置が変化する。行き交う歩行者や自転車に乗る人々はまるで迷路を通り抜けるようだ。突き当たった防音壁を川に向かって走る。蛍光灯の光が私と濡れ

    クリスマスツリー|まささん
  • 冷徹な祭壇:死者の願いと猟奇の背後|まささん

    白壁に手をつきながら鉄製のタラップを登ってゆく。四〇代になりたてのころ仕事で腰を痛めてから騙し騙しやってきたが、季節の変わり目、特に今日のように晩秋で急激に気温が下がった日は、古傷がぶり返す。しくしく痛むのである。 白壁についた手を離すと手形が残っていた。掌を見ると、灰色に汚れていた。「クソッ」と内心悪態をついて、舌打ちをした。アパートのコンクリートの外通路を歩く。手摺りには黄色いテープが張られていた。通路から鉄道が見えた。ここは撮り鉄にとって、名所らしい。 現場は四つ並ぶ部屋の奥から二番目だった。ドアは開け放たれ、青い作業着の人間が頻繁に出入りしている。鑑識である。科捜研も出張ってきているだろう。 痛む腰を叩きながら部屋に入る。すれ違う鑑識が挨拶をしてくる。それに右手を挙げて応える。 「ウッくせえな」 手の甲を鼻に当てる。夏場のホームレスのような、強烈な生き物の内臓のような、そんな臭いが

    冷徹な祭壇:死者の願いと猟奇の背後|まささん
    masarin-m
    masarin-m 2017/11/30
    とりあえずフィクションです。時間かかりました。
  • ギンナン拾い競争|まささん

    それほど大きくはないが、寂れているというほどでもない神社が、地域の中心に鎮座している。この神社では正月に始まり年末まで、神社の年中行事はもちろん、地域のために祭りを開く。神社の参道に沿って、市の分庁舎、地域の寄り合い所、市の文化会館などが林立する。住民だけでなく、市全体がお世話になっている場所だ。 神社の参道は白い御影石でできていて、私鉄の線路から社殿に向かってまっすぐ伸びている。二人か、三人が並べる幅だ。その御影石の列の脇には、桜と銀杏が交互に並んでいた。春は桜並木が花を咲かせる。 ちょうど今は葉が色づき、次々と地表へ落下していく時期だ。落ちた葉は、銀杏の、大人でも一抱えはあろう太い幹とがっちりと張った根を中心に、キレイな円形を描いていた。 積もり積もって、円形に落ちた葉っぱはふかふかの絨毯のようになっていた。桜の木が間に挟まることで、銀杏同士の距離が絶妙になり、他の木の葉と混じらず、キ

    ギンナン拾い競争|まささん
    masarin-m
    masarin-m 2017/10/31
    小説書きました。
  • 何も残らない|まささん

    「だいたいアイツの生き方が嫌いなのよ」 母の言葉に目を丸くした。そして周囲を見回した。 病棟の四階にあるラウンジには人がいなかった。夕方の五時をまわり、面会者はもう帰っていて、患者たちも自分の病室に戻っていた。もうすぐ夕の時間だ。 秋の初めの、まだ勢いのある残暑の夕日がラウンジの温度をわずかに上昇させていた。 入院患者は、この時間帯が最もヒマである。せめて夕までは世間話につきあおうと思った。それが運の尽きだった。 「生き方が気に入らないって、自分の息子じゃんよ」 と弟をかばう言葉が出そうになったが、呑み込んでしまった。 家族は所詮他人だ。それを思い知らされた二十年だった。他人のことを嫌おうが他人の勝手だ、とかばおうとした瞬間思った。もちろん、嫌いな気分が昂じて殺そうすれば、とどまるように説得の努力をするだろう。それは孝心というより物心両面の面倒を回避したいからだ。 口を開くと余計な説教

    何も残らない|まささん
    masarin-m
    masarin-m 2017/09/30
    書き終わった。
  • 翳り|まささん

    白いプラスチックのデッキチェアに真崎が腰を下ろした。勢いを殺せなくて、「尻をつく」格好になる。デッキチェアは尋常ではなく軋んで、けたたましい音を立てる。 「すごい音」 隣のデッキチェアに座った少年が心配そうに言う。少年は少年らしく、細身である。思わず、手摺りに手をつく。 二人の間には丸いステンレスのテーブルがあり、テーブルの上には飲み物が置かれていた。真崎の方にビールジョッキ、少年の方にコーラの入ったグラスである。二人のガラスとも、表面にびっしり露が付いている。真崎がゆっくりとその百キロを超える巨躯を沈めても、デッキチェアはミシミシミシミシ・・・・・・、と破壊寸前という音を上げる。 真崎は同じくミシミシいっている背もたれに身体をあずけて、扇子を広げて、顔に風を送り始める。見上げた空は、夜のわずか手前の時間帯、ブルーハワイのシロップのような色をしていた。空が暗くなれば、花火大会が始まる。 

    翳り|まささん
    masarin-m
    masarin-m 2017/08/31
    何とか間に合った。今の子どもは大変です。働き方って時代によって変わるよね。
  • 一日ホームレス|まささん

    目覚めるとが出勤支度をしていた。上半身を起こして時計を見ると、出勤時間になっていた。空腹であることに気づき、に待ってもらって一緒に家を出た。 外に出ると意外に暑くなかったが、夏の湿気が瞬く間に肌に張り付いた。空には少しだけ綿雲が浮かんでいた。予報では日中は快晴になるはずだ。今日も暑くなる。 急いで出てきたので、寝起きのまま、デニムの半ズボンにポロシャツ、髭も剃っておらず、歯磨きもしてこなかった。コンビニで朝を買うだけだからいいか、とそれほど気にしなかった。 が荷物をくくりおわり、マンションの駐輪場を後にした。 土曜の朝七時前の住宅地は通勤ラッシュも始まっておらず、穏やかだった。 短いというより、ほぼなかった梅雨のために初夏から連日暑く、少し疲れていた。だから今日は家でゆっくりして過ごすつもりだった。とはいうものの、自分の担当の家事、洗濯などはするつもりだった。 狭い路地の交差点で

    一日ホームレス|まささん
    masarin-m
    masarin-m 2017/08/04
  • 向いていない男|まささん

    家に入ると家族はもう寝ていて、家のなかは暗く静かだった。高層マンションの七階なので、周囲の騒音も何も聞こえない。 玄関の照明はだんだん明るくなるタイプだ。手探りでスイッチを点け、を脱いだ。まだ完全に明るくなりきっていない玄関に上がったとき、誰かがいるような気がして、視線を上げてしまった。普段は見ないようにしていた。 姿見に映った男を見てぞっとした。 姿見の男は、初夏で街行く人が軽装になっているというのに、まだスーツの上にトレンチコートを着ていた。顔にはほうれい線が深く刻まれ、額がいっそう禿げ上がっていた。コートの上からでも、身体の筋肉がそげ落ちているのが分かった。達観した老人の清らかさはなく、唇は生肉をべたように脂ぎっていた。 我ながらひどい顔だ。 頬をなで回しながら姿見に近づき、よく顔を見た。そのうち照明の照度が最大になった。姿見の顔もいつもの中年の男になった。 三年前、会社で課長に

    向いていない男|まささん
  • 短編小説の集い「倖せな結末」の感想|まささん

    こんにちは、noteでは初めまして、まささんです。はてなブログでも書いています。そちらと同じように、まさりんと読んでくれてもかまいません。 試験的に、noteで記事をあげてみる。それで、よそ様の小説の感想をあげるというのは失礼なのかもしれないが、その点はご容赦いただきたい。 今回の主催者様の小説が今までと毛色が違うな、と感じたのでその点を書いてみる。主催者様の小説はとある日曜日に湯島に行った帰りに、電車内で読んだ。 主催者様、いやここではI.D.名であるzero moonをつかって、ゼロさんと呼ぼう。結構、「zero moon」というのは好きな名前である。ゼロさんが以前書いていたが、私、まさりんの小説がとゼロさんの小説の違いを、「自分自身が出ているかどうか」だと規定されていた。そうだと思う。 とはいうものの、小説というものの性質上、自分というものがまったく出てこないということはない。必ず、

    短編小説の集い「倖せな結末」の感想|まささん
    masarin-m
    masarin-m 2017/04/13
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