2015-06-30 雨虫(【第9回】短編小説の集い) Tweet 雨が降り出して三日目になった。 朝の番組では、レポーターが緊張した面持ちで実況をしている。 「――えー、JR新橋駅前に来ています。えー、通勤客が多い時間帯なんですが、ご覧ください。人の通りはいつもより若干少ないといった感じでしょうか。皆さんしっかりとレインコートを着込んで雨から身を守っています。いまのところ――」 レポーターも、顔までしっかり覆われたレインコートをしっかりと着込んでいた。まるで原発事故のときに見た防護服のようだ。 「学校はまだ休みなんでしょ」 母がそう言いながら、空になった食器をお茶の入った湯のみに置きかえた。 「うん。連絡あるまでずっと休みだってさ。たぶん雨が止むまで休みでしょ」 ヒロシは湯のみを手に取り返事をした。雨が降った初日の午後からヒロシの通う中学校は休校になっていた。 二人はテレビへと
2015-03-29 卒業 —【第6回】短編小説の集い— Tweet 目が覚めたので寝床から這い起きる。リビングに行くと、母は仕事に行った後で、ヘアスプレーの残り香が漂っていた。甘ったるさの混じったざらついた空気が鼻腔を通ると、気持ち悪さに顔が歪む。窓を開け、リビングと併存するキッチンのテーブルに行き、用意された朝食を確認する——大抵は目玉焼きか卵焼きだ。今日は目玉焼きにベーコンがついていた——。コンロに置かれたままの鍋に火を掛けてみそ汁を温め、茶碗に炊飯器のご飯をよそう。 ヒロシが高校を卒業してから二年間。いつもと変わらない朝だった。 テレビをつけると、お天気お姉さんが桜の開花予想を伝えていた。日本気象協会の第三回開花予想が発表されたそうだ。それによると、ヒロシの住んでいる地域は三月二十六日から三十日の開花となっていた。 ◇◇◇◇ その日の正午過ぎだった。 日課となっているブラウザ
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