日中戦争後の戦時下の日本について書かれたものを読むのは気が重くなる。まず戦時下は「暗い時代」であったという先入観から神懸り的な空虚な言葉が舞い、自由は失われ、死の影がちらつき、実際、この時代を書いたものを読むとそのような記述が目につく。また、それ以前の時代にも増してアクターが多くなることで複雑さを増し、その複雑さを読み進めても結果が「最悪」であることがわかっているので、読み続けるモチベーションを維持するのにずいぶんと負荷がかかる。 さて、現在、日本政治外交史の研究者としての枠をこえて、総合雑誌等でも活躍されている井上寿一氏の新著である。面白かった。上記のような気の重さを感じさせない魅力のある好著である。一般の政治史の文献というものが、各アクターがどこでどうした、誰にあったなど、「噂話」と元にして登場人物が単なる駒でしかない「顔が見えない」という退屈さがあって、「つまらないなぁ」と思ってしま