「記憶力を鍛えよう!」……といった言葉はよく聞かれます。しかしひきこもり状態のように、心が疲れているときには、むしろ「忘れていく力」こそが大事なのではないか?今回は、記憶をテーマにした当事者手記をお届けします。 (文・写真 喜久井ヤシン) 「どうしてお酒を飲むの?」 「忘れたいからさ」 「なにを忘れたいの?」 「恥ずかしいことをさ」 「なにが恥ずかしいの?」 「お酒をのむことがだよ!」 ——サン=テグジュペリ 『星の王子さま』※1 お酒の飲みすぎのせいで記憶をなくすことを「ブラックアウト」という。 これは自分が何をしたのかを「忘れる」というより、そもそも記憶する働きがにぶくなってしまう状態なのだといわれている。 脳みそにある、海馬だかどこかの機能がお酒によってうまく働かなくなり、自分のしたことの記憶がつながらないようになってしまう。 ひどい場合には、目の前で起きていることに対してまったく記