太ったメガネのおばさんが入ってきて、小さな教室のホワイトボードの前に立った。 「さあ、あんた達、今日もレッスン始めるわよ。根暗なんでしょ。人前で喋れるようになりたいんでしょ。そのためにお金払ってるんだから、精一杯やんなさいよ。口を動かしていきなさいよ。じゃあいつものように、発声練習いくよ。『死ねボケナス』からね」 「あ、あの……」おずおずと手を上げたのは、今日からこの教室に入った喉元さんだった。「私……初めて…なんですけど……」 「初めてだからなによ」太ったおばさんは赤い三角形のメガネをしていたが、それを外して目頭を押さえた。 「説明を……」 「じゃあ最初から、私初めてなんですけど説明を、って言えばいいじゃないの。何で区切るのよ。ベしゃりをリボ払いにしてどうすんの。何考えてんの。一人でエレベーターに乗ってる時とか何考えてんの。なんでちょっと上を見んの。あの、階数の、あれを見てんの?」 喉元