いちばん文学の香りがするのは秋であるのにはちがいない。秋はわかりやすくセンチメンタルな季節だからだ。耽美的な小説などは秋に読むとなおさらよだれが出る。けれど作品によっては春だったり夏だったり、それぞれ季節感を纏っているものがある。 私は例に漏れず太宰を読んでありきたりな暗い学生時代を送ってきた。とりわけ『晩年』と『女生徒』このふたつの短編集は繰り返し読んだ。今でこそ「太宰の最高傑作は女生徒」とかいう声もちらほら耳にすることがあって、今更取り上げるのは天邪鬼な私には少しミーハーな感がして躊躇われたのだけれど、はてなブログの今週のお題「読書の夏」というのがたまたま眼に止まって、まんまと紹介する羽目になった。 夏、といって浮かんだのが『女生徒』だったけれど、実際にはこの作品の世界は五月のようだ。内容はある女生徒の視点から見た世界が丁寧に描かれているもので、まさに太宰の得意なアレである。女々しさは
