侍女《メイド》が失踪した。 事件はそこから始まった。 セレナ・アストレッサの長い戦いの、それはほんの一部でしかなかったけれど。 始まりは間違いなくそこだったのだ。 セレナ・アストレッサは私室の大きな姿見の前で跪いていた。 鏡に映っているのはもちろん少女の姿だ。 赤褐色の長い髪、右目は夜、左目は昼。軍服を兼ねた暗緑の学生服。 しかし、鏡の中にいるセレナはまっすぐに立ち、現実の彼女を見下ろしている。 「顔を上げて、セレナ。私とあなたの仲だもの。虚礼は廃して、本題に入りましょう」 「承知しました、ティターニア殿下」 そう言って見上げるのは自分の姿。しかしセレナの視線に宿るのは敬意と忠誠だ。 自尊心などではもちろんない。 他者の鏡像として現れるその妖精は、鏡を介して遠く離れたセレナに語り掛けているのだ。幼い日、忠誠を捧げると決めた大切な存在。根っからの夢女子であるセレナがたったひとりだけ持つことを